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青春さまの青春鉄道、紙端国体劇場作品の二次SSブログです。 同人、腐、女性向けなどに理解のない方、義務教育を終了していない方は、ご遠慮ください。 実在の個人、団体、鉄道等とは一切関係ございません。

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 進行形 6の続きです。終わりました。

 長野新幹線が山陽新幹線とご飯を食べます。
 
 
 (遅ればせながら、いままでに拍手をくださいました方、拙文を読んでくださいました方、ありがとうございました。励みになります)



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進行形 7


 金曜日、山陽新幹線はなじみの蕎麦屋に長野新幹線を誘った。あっさりしたものが食べたかった長野は、ほっとして同意した。

 いままでにも何度かつれてきてもらった店内は、今夜も適度にざわめいて、気楽に食べ、飲み、話せる雰囲気だ。

「蕎麦屋では日本酒だろ、とか言われたことあるけどさ。やっぱ、仕事あがりのビールは最高だね」

山陽が、くうっ、とうまそうな声をだしてジョッキをあおる。長野にはその味はわからないが、山陽の表情と水滴のついた金色の液体は、それだけで爽快だ。見るだけで、自分まで最高の気分になってしまうぼくは単純なのだろうか、でも得な性分だ、と長野は思う。

「上越先輩なら、言いそうですね」

「あたり! そうそう、上越に言われたんだよ」

「でも、ビールでお疲れがとれるんですね」

「お、わかる? 嬉しいねえ。今日みたいにがんばって疲れちゃった日にはさ、そのぶんご褒美がうまいのよ」

天せいろ蕎麦のししとう天をつまみながら、山陽はへらっと笑う。

「今日は、夕方まで博多でしたっけ。もしかして、九州新幹線とお仕事だったんですか」

「うん、そう」

「九州新幹線って、いろいろ話にはききますが、どこまで本当なんですか」

この機会にと、かねてから気になっていたことを尋ねる。

「ん? んー……、たぶん、うわさ以上だよ、ほんものは」

「ええっ、ほんとですか!?

オクラ納豆とろろ冷やし蕎麦を食べていた、長野の箸がとまる。

「だって、ずいぶんな話をききますよ。それ以上って、ありえるんですか?」

すると、山陽の目がやわらぎ、

「ありえる、じゃなくて、ありうるって言おうな」

言葉を直してくれた。

「あ、はい。ありがとうございます。…ありうるんですか、そんなこと」

「いろんなやつがいるよな」

山陽は、蕎麦をつるつるっとやりながら真面目にこたえてくれる。

「九州はさ、おれも深くは知らないけど、とにかくレベルが高いんだよ。…と、思うよ」

「仕事は、すごくできる人なんだろうとは思ってました」

「仕事はもちろんできる。人望もある、カリスマもある。そんで、理想や目標や自尊心やテンションなんかも、ハイレベルなんだな、たぶん」

「ハイレベル、ですか」

長野にはよくわからない。新幹線の先端の計算された流線形のように、できるだけ少ない抵抗で人づきあいをするこの先輩を、毎回ぐったりと疲弊させる九州。なにごとにも強気な東海道新幹線をして、けっして接触しないようにとスケジュールを調整させる九州。

「ま、長野が新大阪まで延伸したら、九州がらみの気苦労もはんぶん分けてあげるから、楽しみにしててよ」

「む、無理ですよ、ぼくには。そもそも、東海道先輩だって、『九州の相手は山陽にしか務まらん』っておっしゃってたんですから」

あせる長野に、

「え、ほんと。光栄だなあ」

余裕の山陽だ。

「まあ、九州とほんとうの意味でわたりあえるのは、東海道だけかもしれないと思うけどね」

あくまでも穏やかな山陽のもの言いに、そんなものかなと長野は落ちついて、冷たい蕎麦をすすりはじめた。

 

 かえりみち、山陽はUFOキャッチャーで小さな箱をふたつ獲ってきて、

「はい、これ」

ひとつを長野にくれた。ありがとうございますと受けとる。

「あ、ジブリだ」

思わずにこりとする。長野が好きなアニメーション映画の挿入歌のオルゴール。再度、礼を言う。

「じつは、こっちが本命だったんだけど、そっちも取れたから」

にこにこと山陽が見せるのは、おなじ会社の、ちがう映画の歌のオルゴールだ。

「先輩は、そっちがお好きなんですね」

「ん、まあ、そうかな。いい歌だよな」

たわいない話をしているうちに、宿舎に着く。

お疲れさん、おやすみなさいと挨拶して自室にひきとった長野は、着替えをしながらかすかな違和感をおぼえた。

(なんだろう。今日は、変わったことはなかったのに)

バスタブに湯を張るあいだ、

(運行は順調だった。山陽先輩もいつもどおりだったし……)

考えつつ歯みがきをしていると、

(そうだ、いつもどおり。あまりにも、いつもと同じだったんだ)

違和感の正体が見えてきた。

 今週は入れかわり立ちかわり、ねぎらいと励ましを受けつづけてきた。しかし、山陽はまったく普段どおりに食事をし、雑談をして帰っていった。

 歯ブラシをくわえて考える。

(ぼくと東海道先輩とのかかわりの変化に気づかない人じゃない、はず)

わからない。山陽は大人すぎて、長野には量り知れない。

けれども、心地よい人だ。穏やかなひとに普通に接してもらうと、たいらかな気持ちで過ごしていくことができる。

(山陽先輩も、疲れたり、嫌なことがあったり、たくさんしていらっしゃるのに)

いろんなやつがいるよな、と山陽の声がよみがえる。だれのことも責めることのない響き。

山陽先輩はすごい、と思う。平静にすることの難しさと大切さを感じる。自分はできていなかった。だから先輩たちに心配をかけたのだ、と。

なにがあっても飲み込まれず、生きていくために。心配や迷惑をかけず、ごくあたりまえに暮らしていくために。

(大人に、なりたい!)

そう、長野はつよく願った。

 

 

 翌朝、長野新幹線は起きぬけに、部屋の見えかたがちがうと首をかしげた。たしかに見慣れた自室なのに、おかしいな、と。

 その後、いつもと同じく制服を着ようとして、違和感の原因がわかった。

 制服に体がおさまらなかった。一夜にして、背が伸びていたのだ。

驚いたけれど、あわてはしない。ずっと前に東海道が用意してくれた制服がちょうどいいと手をのばす。

ハンガーから上着をはずすと、裏地に青い糸で刺繍があった。東海道新幹線、と。

はっとしてズボンのすそを見ると、はたして不恰好なまつり縫いがされている。

東海道は、自分の制服を手作業で直してくれたのだ。

おさないころには、なんでも上手にできると輝いて見えていた東海道が、じつは極端に不器用なのだと知っている。不器用にもかかわらず、ていねいに、しっかりと物事を為しとげるのも知っている。

しわになるのもかまわず、長野は制服を抱きしめた。

ひと針ひと針、時間をかけてすそ上げをする東海道のすがたが、縫い目のむこうに見えるような制服だった。

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削谷 朔(さくたに さく)
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山形新幹線×東海道新幹線が好きです。
でも基本的に雑食、無節操ですのでご注意ください。
鉄分のない駄文ですが、よろしければ覗いていってください。
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