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青春さまの青春鉄道、紙端国体劇場作品の二次SSブログです。 同人、腐、女性向けなどに理解のない方、義務教育を終了していない方は、ご遠慮ください。 実在の個人、団体、鉄道等とは一切関係ございません。

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 「君を恋う 3」の続きです。
 まだ、ほぼ山形のみです。




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君を恋う 4

 終点の山形駅はまだ明るく、ホームには入線まえから職員や地元の見知った人々が待っていて、新幹線の帰郷を手をふって出迎えてくれた。
 「つばさ」をおりた新幹線は、制服の折り目正しく立つと、かしこまってお辞儀をした。一瞬その場が静まりかえり、拍手と歓声が彼をつつんだ。
 それからの山形新幹線は忙しかった。自分の各駅をおとずれ、挨拶まわりをするのだ。東京に午後までいたのだから当然だが、例年より時間がおしていた。それを告げると、
「まあまあまあまあ、そうおっしゃらずに」
「おもだった方々が、こうして来てくださってるんですから」
「現場はいつもいらしてるんだし、今日はいいじゃないですか」
「そうですよ。近くの店に席をご用意してますから、さあさあ」
興奮して上気した年配の紳士たちが、地元の誉れをひきとめにかかった。ひきとめられるのは毎年のことだが、今年はほんとうに時間がない。山形は申し訳ないと頭をさげて、一時間足らずで自分のための宴席を抜けさせてもらった。
 山形駅の改札を通るときも、顔見知りの職員が目じりを下げて話しかけてきた。
「あ、山形さん。今日の昼前に、山形さんはまだ着かないのかって訊いてきたお客様がいましたよ。今日は遅れるみたいですってお答えしましたが、よかったですか」
「ああ、すまねっす。心当たりはねえけんども、だいじょうぶだず。ことしは遅くなって悪かったなあ」
「とんでもない、おめでとうございます」
「おかげさまで、いままで無事に走れました。これからも、よろしくお願いするっす」
 乗客も現場のひとも偉いさんも、山形という存在を知るひとも知らないひとも、支えてくれるすべての人々のおかげで自分は走っていられる。山形新幹線は、昨日からくりかえしてきた言葉をのべて、こころから頭をさげた。
 
 新庄の夜は涼しい。雲間に月が高く、山形新幹線の足もとをてらしてくれる。
 天童から新庄まで、在来線と新幹線を乗りついで丁寧にまわったら、終業は22時をすぎてしまった。しかし、行ってよかった。みな待っていてくれて、よろこんで山形を囲んでくれた。その間は、朝からの憂いを忘れていられた。
 このあとは、地元の路線たちと宿舎で飲み会だ。あした休みの山形はともかく、出勤のものが大半だろう。先に始めてくれとは言ってあるが、会の主役だし、急いで帰らなければならない。福島から山形までは昨日のうちに挨拶をしておいて助かったと、山形はあらためて思った。
 道は、人里を離れるにしたがって細くなり、だんだんと自然のふところに入っていく。虫のこえ、木々のさやぎ、夜露のにおい。感情が静まり、雑多な思考がしずんで、澄んだところに素直なこころが浮かんでくる。
(いま、どこにいるんだずなあ)
 急ぐはずの脚が、いつか止まっていた。
(おなじ月のしたに、いるんだべ)
みあげる月の鏡に、かの笑顔が映っている。いまにも自分に呼びかけそうに、さやかに。
(なして、なんも言わねえだ)
面影は、青くかがやく。
(なして、おれでねえだ。なして……)
笑顔は遠く、いまの山形には届かない。
 けれど、月に映る彼は、山形を愛している。
 山形の知る彼はたしかに。
(おめさのこと、なんにも知らねえんだなあ)
 自分の知るひとが、ほんとうの彼である保障なんて、どこにもない。
 薄い雲が、月のかげを隠した。


 山形新幹線が夜道に立ちつくしているころ、隠れ家のような路線宿舎をおとなうものがあった。
「夜分に失礼。山形新幹線は在宅か」
 訪問者の、礼儀正しくも威圧的な態度に、応対した若い路線は気をのまれた。それでも、自分たち鉄道の存在は機密扱いなので、気圧されながらも律儀に問いただした。
「ど、どちらさまですか」
訪問者は、す、と左手の甲をあげてみせた。
 薬指に、金のリングが輝いていた。

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プロフィール
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削谷 朔(さくたに さく)
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山形新幹線×東海道新幹線が好きです。
でも基本的に雑食、無節操ですのでご注意ください。
鉄分のない駄文ですが、よろしければ覗いていってください。
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