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青春さまの青春鉄道、紙端国体劇場作品の二次SSブログです。 同人、腐、女性向けなどに理解のない方、義務教育を終了していない方は、ご遠慮ください。 実在の個人、団体、鉄道等とは一切関係ございません。

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 東海道新幹線、そして急行はと、開業の日おめでとうございます!

 という気持ちで、山形新幹線×東海道新幹線SSです。
 原作にいない、嫌な役回りの人間が出てきます。

 2013年9月30日から10月1日にかけてのお話です。
 よろしければ、どうぞ。

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ハートツリー

 九月の最終日、東海道新幹線は定時にあがった。
「先に帰る」
「え、もう!?」
ワーカホリックの彼にはめったにないことだったので、いあわせた秋田新幹線はおどろきの声をあげた。
「体調でも悪いのですか」
すこしだけ大人びてきた北陸新幹線が東海道を見あげる。
「なに、さっき上半期の仕事がすべて終わったからな。心配にはおよばん」
「あ、そうなんだ。たまには早帰りもいいよね。お疲れさま」
なにを言っても偉そうないつもの口調に秋田が返す。北陸はじっと東海道を見つめていたが、さみしげに笑って「お気をつけて」と送り出した。
 それから、壁のホワイトボードに目をやる。定時をまわるや否や取りだしたコアラのマーチのふたつめをあけながら秋田がきく。
「なに見てんの、長野」
過渡期の北陸は、まだ長野と呼ばれることが多い。
「今日は、山形先輩も山陽先輩も東京にいらっしゃらないんですね」
「……東海道が心配?」
「なんとなく、ですけど。本調子じゃないような気がして」
ううん、と秋田はすこし考えて
「うん、もしかしたらそうかもね。でも、あしたは開業記念日だから、ジュニアとかと前祝いでもするのかもしれないよ」
おだやかに言った。
「もし具合がよくないとしても、それならなおさら、早く帰るのはいいことだよ。だいじょうぶ。仕事終わったって言ってたし、遅延もトラブルもでてないし。あのいばりんぼは、仕事が順調にいってさえいれば元気なんだから」
北陸はあいまいにうなずく。
「きみも明日はおめでとうだね」
そういって秋田はにっこりと菓子の紙箱をさしだしてくれた。
 北陸は、ありがたくチョコレート菓子をひとつつまんだ。

 自室に帰るなり、東海道は居間に倒れこんだ。電気もつけず、制服もそのままに。
 全身から力がぬけて、頭痛と胃痛と疲労感がすさまじい。高速輸送中の負荷が重く、するどく東海道の芯にひびき、衝撃がふだんの何倍かに感じられる。それでも骨身がきしむのは走っている証拠だ。そして、終業まで誰にも気取られず、きっちり仕事をおこなえたことに安堵して、みっともない自分を許した。
 眉ひとつ、指いっぽん動かせない倦怠感はむかしなじみのものだ。いまいましいが、精神的にやられると東海道の中ががらんどうになって、ぬけがらのように脱力してしまうのだ。初めてではないから不安はない。できるのは、じっとして待つこと。自分の中にすこしずつ力が戻ってくるのをひたすら待つ、それだけ。
(動けるようになったら水分をとって、できれば着がえて布団に入って。朝までには復調させないと)
きりきりと痛む頭で算段をする。今回は自力で対処できると踏んで、山形新幹線が福島泊まりでよかったと考えた。不要な心配をかけなくてすむと。
(それにしても、えらい人というのは、なぜあんなにも人を人とも思わずにいられるのだろう)
 昏く、ささくれだった感情がかってに思考をはじめる。連想に近いとりとめのないものだが、東海道のこころの本音だ。
 今日、接待をかねてビジネスランチを取った官僚が、東海道にダメージをあたえた元凶だった。彼が、とくに何かをしたわけではない。重役もまじえておだやかに会食は終わった。ただ、彼の視線、物腰、発言ににじむ何かが、毒のように東海道を侵蝕したのだ。冷淡、傲慢といった言葉では表せないレベルの、強烈な選民意識。他を見下している自覚すらないほどに染みついたそれは、東海道にとっては得体のしれない本能的に不快なものでしかなかった。
 彼は、東海道を見世物小屋のばけものを見るかのように興味深く観賞した。
 そして、国家や政策や公共事業を錬金術の装置であると隠さず、国民という資源をできるだけ彼と彼の省庁のためだけに使うと、それが彼にふさわしい利口なことだと信じていた。
(利権とは、まさにそういうものだが)
 彼の視線は不愉快だったが、自分のことはいいと東海道は考える。自分たちが利権の申し子であるのは事実だし、そもそも人間につくられたものだ。人間になりたいわけではない。どのように扱われようと鉄道として誇り高くあればよいと定めてきた。
(しかし、おなじ人間の、おなじ国の同胞をなぜ資源とみなせるのか)
 東海道にはわからないが、その醜悪さに吐き気がするのだ。
 しかし、満州でも日本でも、戦前も戦後も、人の社会はそうだった。そして、階層が上がっていくにしたがって、きょう会った官僚のような人間は増えると東海道は経験していた。さらに、参政権を持ち、人権を保障され、教育も情報も得られる現代の日本人の多くが、利権や不正をなかば知りながらも、されるがままになっているのも不可解で、気味が悪い。
(いろいろと勉強はしてきたが、わたしは人ではないからな。…わからなくて当然なのだろうが)
 胸の底がぐるぐると、やけるように苦しい。それが、この国と人々をたいせつに思うゆえだとは気づかず、東海道はこらえた。

 どれくらい横たわっていただろう。夜半になって、東海道は身体を起こせるようになった。
 N700系のトレインボトルウオーターを飲み、支給品のパジャマに着がえてからベッドに入ったが、人の毒気にあてられて神経のとがった心身は容易に睡眠に入ってくれなかった。ようやくうとうとしたかと思うと悪夢で目をさます、というのを三回くりかえして、東海道は観念した。夢の内容は覚えていないが、いずれも自分は「はと」だった気がする。
 温室育ちからくる脆弱さか、むかしのトラウマか、ひよわな自分を情けなく思いながらも睡眠をとるために行動をおこす。明日は記念日で、衆目を集める。BTとして万全で臨まなければならないのだった。
 枕と携帯をかかえて向かったのは、山形新幹線の部屋だ。無人だが、今夜も鍵があいている。
 東海道はふらふらと奥のベッドにもぐりこむと、自分の枕をセットし、山形の枕を抱きしめて頭から布団をかぶった。安らげる、大事なひとの気配につつまれて、いらだった神経が解けていく。
 ようやく眠れると息をつき、まぶたをとじる。すると、ふいに携帯が鳴りはじめた。恋人をしめすメロディーに反射的に身体が動き、布団にくるまったまま電話にでる。
「おれだず、東海道」
(ああ、山形だ)
東海道は強い声がつくれず、とっさに返事ができなかった。
「どうしたあ、東海道。もう寝てたかあ」
 ゆったりと、のんびりとした大好きな声。からっぽの自分という器を満たしてくれる。東海道にそのひびきが沁みいるまで、山形は、しばらく待ってくれた。
「だいじょうぶだ、起きていた」
「そうかあ。よかったが、なんかあったか。疲れてるんけ」
山形に隠しごとはできないな、と苦笑する。
「…ん、すこしな。寝れば治る」
「そりゃあ、こっただ遅くにすまんかったなあ。だいじにな」
「おまえこそ、どうした」
自分の声に張りが戻ってきているのを意識しつつ、つとめて元気に話す。
「零時をまわったから、おめさの真似をしてみたんだず」
「真似?」
「開業の日だ、おめでとう、だず」
東海道は真っ赤になった。それは、三ヶ月前に山形に自分が言ったせりふだ。うれしい、うれしい、うれしい、けれどものすごく照れくさい。
 山形の布団のなかで、いたたまれずに転がる東海道を知るよしもなく、山形はおおらかにとどめをさした。
「ほんてんに、めでてえなあ」
 恋人のつくった巣のなかで、東海道という名の「はと」は呼吸困難におちいった。

 電話を切ったら、すいこまれるように睡魔がおとずれた。深い眠りからさめた東海道は、頭も身体もまずまず回復しているのを確認して、シャワーを浴びた。
 それから、まだ食欲はなかったが朝食にする。勝手知ったる山形の部屋で、小鍋にご飯をやわらかく煮る。山形の地元の味噌と、製氷皿に冷凍してある出汁のキューブを溶きいれて具のないおじやにした。
 座卓にむかい、背を丸めてふうふうと冷ましながら口にすると、やさしいあたたかさが広がる。山形の味だと身体がよろこぶ。
 ゆっくりと食べながら、つきあいはじめのころを思い出す。八丁味噌も好きだが、山形のつくってくれる味噌汁が一番おいしいと言ったら、山形は味噌を吟味し、自分で出汁をとるようになった。ろくに料理をしたこともなかったのに、いっしょに台所に立ったら上達が早くて、いつまでたっても不器用な東海道は目をみはったのだった。
(おかげで舌が肥えて、ほかの味噌汁がまずくなったと文句を言ったら、出汁を冷凍しはじめて「これでおめさでも、いつでもおんなじ味がつくれるよ」と言われたのだったな。たしか「山形も忙しいのに、面倒をかけるな」と伝えたら)
東海道の脳裏に、ふたむかしも前の情景があざやかによみがえった。
「嬉しいだけだあ。おめさだって『新幹線がいい』っていわれたら張りきって走るべ。改善も開発も、ちっとも苦じゃねえべ」
「それは、たしかに。よろこんで乗ってくれたら、ありがたいな。わかった。すまないと思うのはやめよう」
いまより若かった恋人は、いたずらっぽく笑うと
「んだ。うめえって食べてくれて、こっちこそありがとうだず」
そういって東海道の頬をくちびるでかすめた。
(朝から! わたしは何を考えているのだ、まったく!!)
 よぶんなことまで思い出して動揺してしまった東海道は、くびすじを赤らめつつも呟いた。
「そうだ、な。乗ってくれてありがとう……きょうは、ありがとうの日だな」

 一時間後、いつも以上に隙なく身支度をしたBTは、颯爽と朝の街へと出ていった。
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削谷 朔(さくたに さく)
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自己紹介:
山形新幹線×東海道新幹線が好きです。
でも基本的に雑食、無節操ですのでご注意ください。
鉄分のない駄文ですが、よろしければ覗いていってください。
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