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青春さまの青春鉄道、紙端国体劇場作品の二次SSブログです。 同人、腐、女性向けなどに理解のない方、義務教育を終了していない方は、ご遠慮ください。 実在の個人、団体、鉄道等とは一切関係ございません。

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 「君を恋う 8」の続きです。




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君を恋う 9

 山形新幹線がまぶたを上げると、日ざしとともに落ちついたまなざしにつつまれた。まなざしの主は「起きたか」とやさしく声をかけてくれたので、山形は心地よくて、自分に都合がよすぎると、きのうの出来事が夢だったような錯覚におちいった。
 東海道新幹線はすでにきちんと制服のシャツを着こみ、ベッド脇にすわって山形の手を握ってくれていた。しかし、彼の顔色は冴えず、目のまわりが落ちくぼんで黒ずんでいる。昨夜、この手でここまで疲弊させたのだと目のあたりにして、いまさらながら山形は自分を殴りたくなった。
 山形が黙っていると、
「悪いが、勝手に風呂とシャツを借りたぞ」
東海道が笑った。無理をしている様子はなくて、でもどうして笑えるのか山形にはわからない。きのうからのさまざまな迷いが胸にひろがる。取り返しのつかないことをしたような気もする。なのに、彼はおだやかにここにいる。無意識に口をひらいて、混乱して東海道を見つめる。
「どうした。ねぼけてるのか?」
左手がしめつけられた。東海道が握った手に力をこめたのだ。そして、目もとを和らげてふわりと笑んで、
「なんだか、赤ん坊みたいだな」
まろやかな表情をみせてくれた。
(おめさは)
 なぜかはわからない、東海道がなにを思っているのかは知らない。しかし、これだけがわかった。
 自分は、ゆるされている。
 否、ゆるすより先に責められることがなく、まるごと受けとめられている。
 もったいないほど大事にされている。
(こっただひとを、なして疑っちまっただか。あんなにも、手荒なことができたんだずか)
 自分の弱さやひどさを悔いても遅い。してしまったことは、まず謝るべきかもしれないが、このひとの前では悔いても詫びても自己満足になってしまうような気がする。なにより、このひとはそれを望まないと感じる。
 困り果てる山形の手を握ったまま、ことんと東海道がシーツに頭をあずけてきた。目をとじて、全身に疲労をにじませて。うなじに虫さされのあとが見える。きのうよりは赤くない。
「おめえ、なして、あんなにたくさま虫に噛まれたんだ」
 ようやく出てきた言葉は、おはようでも謝罪でもなく、そんな疑問だった。
「切り株に座ってたんだ」
「きりかぶ?」
「この宿舎の手前に、ほら、道なりに切り株があるだろう。あのうちのひとつに座っていたら、暗くなるにしたがって噛まれてしまったのだ」
「暗くなるって、夕方からいたんけ。んな、どうして」
「あそこなら、帰ってくる山形に会えると思って」
「へ」
おもわず間のぬけた声がでた。
「『つばさ』で会えなかったからな。ゆっくりまわるのも有意義だったが、おまえを祝いに来たのだから。まあ、あまりに遅く宿舎を訪ねるわけにいかなくて、結局おまえより先に宴会にまぜてもらったが」
「おめさ、なんの話しば、しとる?」
山形には、東海道の言が理解できなかった。
(つばさ? まわる? どこを? 待っていた? ずっと?)
心底わからないと、きょとんと東海道をみつめると、彼は
「おまえでも、そんな顔をするのだな」
と口もとをゆるめて、ざっと説明してくれた。
 休暇をずらして計画を立てたこと。山形の乗務予定だった8時台の「つばさ」に乗ったが、会えなかったこと。駅員に山形の到着が遅れるときいたこと。半日かけて山形の地元を歩いたこと。夕方には宿舎について、切り株に座ってのんびり山形を待ったこと。夜更けまで山形が帰らないので、行き違いになったかと不安になったこと。宿舎を訪ねたら上座に案内され、丁重にもてなしてもらったこと。山形を驚かせたくて内緒にしていたこと。
「用事のついでじゃなかったのけ……」
 山形は呆然とつぶやいた。
 思ってもみなかった。この多忙な、ワーカホリックが。効率と合理性を重視するBTが。まるまる二日間、コストをかけて。
「こっちに、おまえ以外の用事などあるか」
 いまだベッドにもたれたまま、東海道は目じりをさげた。そのまわりの濃いくまが疲労をあらわしていたが、彼はさえずるように話をつづけた。
 前夜は楽しみで、なかなか寝つけなかったこと。「つばさ」の車内で山形に見つかるかどうかと、どきどきしていたこと。山形が乗っていないとわかって拍子抜けしたこと。スケジュールのない気ままな一日は新鮮だったこと。定食の冷奴にかかった刻み野菜がおいしかったこと。県庁所在地である駅前の静けさにおどろいたこと。観光案内所やお店のひとに気さくに声をかけられて嬉しかったこと。ひたすら歩きまわったら、運動不足を実感したこと。切り株に座って空を眺めていたこと。山形の鉄道たちが、うちとけて、よい雰囲気で感心したこと。山形の帰宅が遅くて、地元の星もたいへんだなと思ったこと。
 そして、こう締めくくった。
「山形のおどろいた顔が見られたからな、成功だ」
 はにかみを含んだ、得意げな笑みで。
 朝のひかりがまぶしくて、山形はまたたいた。
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削谷 朔(さくたに さく)
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山形新幹線×東海道新幹線が好きです。
でも基本的に雑食、無節操ですのでご注意ください。
鉄分のない駄文ですが、よろしければ覗いていってください。
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