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青春さまの青春鉄道、紙端国体劇場作品の二次SSブログです。 同人、腐、女性向けなどに理解のない方、義務教育を終了していない方は、ご遠慮ください。 実在の個人、団体、鉄道等とは一切関係ございません。

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 国鉄民営化前の年。
 三時間戦争をたくらむ東海道本線と、東北本線の会話です。

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彼の日の空

 思い出すのは明治の空。
 世も、人も、相棒も自分も、素直に大好きだったころの。
 その日、ぼくと一区線はそろいの着物と下駄をあつらえてもらった。
 仕立ておろしで糊がきいて、肩揚げも腰揚げもたっぷりとしていた。
 下駄は桐で、軽くて、すべらかで、いいにおいがした。
 おとなが言った。今日はお客が来るのだと。
 会社へのお客じゃなく、ぼくたち、一区線と二区線に会いに来るのだと。
 そんなことは初めてだったから、ぼくは思わず一区のかげに隠れた。
 一区はぼくの手をさぐり、握ってくれた。
 お客は、背の高い鉄道だった。
 唯一であるがゆえに、いまだ固有の名を持たず、ただひとり鉄路を拓いてきたひとだった。
 待っていたよ、と彼は言った。
 腰を折って、ぼくたちを覗きこんだそのひとの後ろに、まばゆい空がひろがっていた。

「花火をあげないか、宇都宮」
 繁華街のバーガーショップ。学生服の青年がふたり、にこやかに談笑している。
「わざわざ新宿まで呼び出して、なにを言うかと思えば。こっちはヒマじゃないんだよ」
「まあまあ、こうして昼飯をおごってやってるじゃないか」
「ひさしぶりに食べたよ、油脂率90パーセントのフライドポテトと板のようなハンバーガー。めずらしいものを、ご馳走様」
東北本線はいつもどおり慇懃に嫌味を言うのだが、東海道本線に痛痒はない。
「気にするな。知り合いが来ない店をえらんだまでのことだ」
「自慢のお兄さまに、もの言いが似てきたね、東海道」
「いや、それほどでも」
「ほめてないよ。で、花火って」
「うん。民営化前に、ドカンとやりたいな、と」
おだやかに提案する東海道に、東北は笑顔を保ちつつ胡乱なまなざしを隠さない。
「国鉄の解体は決まったけど、おれたちに、ちっとも話が来ないだろ? 上意下達は宮仕えの宿命だけど、正直、おもしろくない」
「それは、同意見だね」
「同様に、不満がたまっている路線がいるだろうから、彼らを集めて派手な騒ぎをおこしたい」
「なんのために」
「風穴が開くだろう、気分も晴れる」
東北は手をのばして東海道のポテトをごっそり失敬する。
「と、いうのが表向きなら、本音はなんだい」
「本心だよ。おれのほうにもきみのほうにも、不満と不安と情報不足で煮詰まってる仲間がいっぱいいるじゃないか」
「まあね。あたりまえだよ、人間どものあの態度じゃ」
「そう思う?」
「そりゃあね。今の国鉄は、借金だらけのくせに、とにかく権威、建前、号令、組合、闘争、違法のストライキ、日勤教育、ヤミ休暇にヤミ休憩、ヤミ超勤、規定違反の常習化! きみ流に言えば、愛すべき人間らしさだよね。利権にむらがるお偉いさんも、権利ばかり主張して、いざ解体となれば日和ってきょろきょろと長いものに巻かれようとする職員たちも、まったく醜いったらないよ」
ポテトをぶんぶん振りまわして、東北が吐き捨てる。
「まあ、彼らにも彼らの生活があるんだよ。うん、でも、国鉄の解体、民営化は致しかたないよね。ここまで借金がふくれあがって、しかも自浄機能がないんだから」
「ここまで腐りきってしまったんだからって言えばいいのに」
 東海道は、バーガーを食べる手をとめて目だけで笑った。
「きみは、やはり高崎と似ているね」
「はい!? あの馬鹿とぼくの、どこが似てるって?」
東北が思わずくってかかる。
「まじめだよ。二人とも、愛すべき純粋さだ」
「…………やだやだ、これだから年寄りは」
「いくらでも愚痴っていいよ。きみが年寄り呼ばわりできるのは、おれくらいのものだからね。おれはさ、宇都宮。人間には人間の事情があるんだと思う。思うけど、それでおれたち鉄道を蔑ろにしていいという法はないとも思うんだよ」
「どうせ、ぼくたちは日陰者じゃないか」
東北が拗ねる。
「そうだね」
「ほんの少数で、鉄道を離れては生きていけなくて、なんの保証も証明もない、幽霊のような」
「ストップ」
東海道は、つよく後輩をさえぎった。
「おれたちは、隠された存在だ。だけど、幽霊じゃない、無力でもない。ちゃんといるんだ。そうだろう?」
東北が先輩の顔を見上げる。
「おれたちは、人間に踏みつけにされていい生きものじゃない。そうだろう?」
東北が先輩の言にうなずく。
「花火をあげよう。おれたちと、仲間たちとで」
「それが、何になるっていうんだ」
「人間たちに見せてやる」
先輩がほほえむ。
「おれたちが、いつでも、なにをされてもおとなしくしているとは限らない、という事実を」
東北は首をふる。
「それが、なんの役に立つっていうんだ」
「みんなの気が晴れる」
「それだけじゃないだろう。そんなことのために、組織を敵に回して示威行為をするきみじゃない。なにが目的だ」
「敵は組織じゃない、きみだ」
ぴく、と東北の眉があがる。
「きみとおれが、ごく些細なことでドンパチをやるのさ。原因は、ほほえましく、バカバカしいほどいい」
「だが、実際には派手なおおごとになるんだな。上の連中がびびるほどの」
「おれたちの意見を、どうしても聞きたくなるようなね」
「断る」
東北は即答だ。
「どうして?」
「メリットがない」
「発言力が増す。予算が取れる。仲間を守れる。胸をはって歩ける」
「仲間を守る? そう、廃止や予算の削減で立場が弱まる仲間をね。きみはご立派だ」
「自分たちのためだよ。ただでさえ少数派なんだ。予算だって正規のものじゃない。足場は自分たちで固めていかなければ」
「ったく、やな奴」
 むかしからそうだった。東海道本線は、まっすぐに仲間のことを考え、行動をおこし、責任を取る。長く鉄道の最古参として、矢面に立って国鉄や人間たちと渡りあってきた。すべてこの国の鉄道は、多かれ少なかれこの人の傘の下に守られてきたのを、東北本線は知っている。人間のずるさも醜さも、世のなかの手ごわさも、マイノリティーの鉄道の非力さも、だれよりもよく知っているはずなのに。
「あいにくぼくは廃止の心配はないし、ほかの奴らがどうなろうと知らないね。事を起こせば、ぼくが責任を問われて処分されるんだろ。知ってのとおり、なんの得もないことはしない主義なんだ」
 すると、東海道は姿勢を正して東北を見すえ、それから深く頭をさげる。
「頼むよ、二区線」
古い呼び名に、東北が固まった。
「…………卑怯だよ、きみ」
「おまえの力が必要なんだ」
自分の分を食べ終わっていた東北は、ぱくぱくと東海道のポテトを食べた。わき目もふらず食べつくして、ジュースを一息に飲む。
 こういう無理強いもあるのだ。まったく食えない爺だと、東北本線は痛感する。
 かわらない、かなわない大きなひと。自分はもう、見切ってしまったのに。人の世に希望を持たないのに。ひとことで、あの日の空を思い出させるなんて。
「ぼくたちの意見を聞いたとしても、人間どもは嫌がらせをしてくるよ。あいつら、メンツにこだわる生きものだからな」
「助かるよ。じゃあ、どこでやろうか」
東海道が余裕綽々なのが、東北は気にくわない。やだやだ、これだから年寄りはと内心で罵倒して溜飲を下げる。
「国分寺、かな。どうせ廃校になるんだろ、金がなくて」
「鉄道学園か。いいな。郊外だけど近くに技術研究所もあるし、お偉方の耳にも騒ぎが届きそうだ」
「郊外だからいいんだよ。やるなら、ぼくはとことんやるよ」
「怖いなあ」
「むかつくから、心にもないこと言わないでくれる。あ、上官にはあらかじめ言っとくからね」
「え」
 はじめて動揺を見せた東海道に、東北は愉快になる。
「上官とまでもめるのはお断りだよ」
「兄貴には言わないでくれ。事前に知れたら、絶対とめられる。阻止される」
東海道のこめかみが引きつっている。彼の兄はとにかくスクエアなのだ。
「どうしようかなあ」
「宇都宮ぁ」
「いいよ、貸しにしとくね」
東北はにっこりと笑った。

 時はすぎ、国鉄民営化をひかえた三月のこと。支給された新たな制服に、在来線たちは悲鳴をあげた。気でもふれたかと思うような鮮やかなカラーリングのそれを、これから毎日身につけるのかと。
 それが人間たちの嫌がらせだ、3時間戦争の意趣返しだと気づいたのは、ごく一部のものだけだった。
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削谷 朔(さくたに さく)
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