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青春さまの青春鉄道、紙端国体劇場作品の二次SSブログです。 同人、腐、女性向けなどに理解のない方、義務教育を終了していない方は、ご遠慮ください。 実在の個人、団体、鉄道等とは一切関係ございません。

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 「君を恋う おまけ2-1」のつづきです。
 奥羽本線と、廃止特急つばさが出てきます。

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君を恋う おまけ2-2


 一時間後、缶ビールを持って奥羽本線が自室を出ると、廊下のはしに人影をみとめた。ぼんやりと座りこんで、暗い窓を見あげている。
(つばさか)
廃止になって久しい特急だ。日々、できることを探してまじめに働く健気なやつだが、いかんせん線が細く、思いつめやすい。この性質で不安定な立場が続くのは、さぞ厳しいだろうと本線として気にかけてきた部下である。
 奥羽はいったん自室に戻ると、もう一本缶ビールをさげて、足音もなく廊下をすすんだ。
「横、いいか」
いいながら、返事を待たずに座ってしまう。
「奥羽さん」
缶ビールを開けて、ひょいと手わたす。つばさが押しに弱いことは知っている。素直な質であることも知っている。自分もビールをぐびりとやる。窓からは月と夏の星々が見えた。
「時期だなあ。夜でも肌寒くなくなったな」
「はい」
それきり沈黙が支配した。自分は平気だが、こいつには居心地が悪いかもしれないと心配しはじめたころ、つばさもビールを飲み始めたのでほっとした。
「小柄なひとでしたね」
「背丈はあるのに、細くて」
「意外でした」
 ぽつり、ぽつりとつばさが気持ちをこぼしはじめた。
「貧相なくらいで」
誰のことだろう、と奥羽は思ったけれど
「こんなこと言ったら、不敬罪ですかね」
それで東海道新幹線のことだとわかった。
「いいさ、今だけオフレコだ」
聞き役に徹する。
「やせっぽちで、頭でっかちで、子供みたいな顔して」
「髪の毛なんかぴょんぴょん跳ねちらかして」
「後から来たくせに、上から目線で、えらそうで」
「…………えらいんだけどさ、実際。わかってるけど。後から来たくせに、取っていって」
あのひとは、つばさより山形さんより年上なんだけどな、と奥羽は内心で笑む。
「おまえ、むかし嫌いだって言ってたな、新幹線」
「嫌いですよ。今でも」
「山形上官も、新幹線だぞ」
「先輩は、先輩です。 新幹線になっても、変わらない、やまばと先輩だったのに」
 おどろきだった。つばさには、そう見えていたのか。この二十年あまり、ずっと。
(おいおい、走ることを手放してから、こいつの時間は止まってたのかよ)
つばさはひざを抱えたまま、唇を尖らせる。
「路線や車両だけじゃない。先輩も、取られた」
 奥羽本線はひやっとした。やまばとが、新幹線に取られた━━それは、どういう意味で?
 歴史ある本線として、この宿舎で奥羽は山形の次にいい部屋をもらっていた。すなわち、山形の隣である。あの夜、つねに静かな隣室から大きな物音がひびいた。ありえない声を聞いた。いたたまれなくて客間に逃げて、私鉄にまざって雑魚寝をしたのだった。
 翌日の仕事中も、そのことが気になって仕方がなかった。夕方、「つばさ」に乗りこむ二人の表情を見て、ようやっと腑に落ちたけれど。
「東海の上官といる先輩は、新幹線だった」
 ああ、そういう意味ね。奥羽は安堵する。
(気づいたんだ、この前。ってか、気づかなかったんだ、それまで。おまえ、まったく甘いなあ。素直で裏表がなくて手を抜かなくて、いいやつなんだけどさ。それじゃあ確かに新幹線の役目は難しかったな)
「おまえ、欲しかったのか? 違うだろ」
奥羽の声がふかまる。
「欲しいひとのものになるのが一番だよ。ひとも役目も。代わってもらったあのときから、おまえにとって、やまばとが特別になったのはわかる。でもさ、やまばとは上官なんだよ。二十年を走って、おれたちを統べて、山形上官になったんだよ」
つばさが本線を見あげる。
「今でも、やまばとはやまばとだ。上官の中にはやまばとが、やまばとの中には蔵王がいる。おれは、立場の上下にかかわらずおまえの本線だし、上官の本線だ。どっちに何があっても、おれにできることなら手を出すよ」
つばさの眉がさがる。さびしさの影がうすれた。
「みんな、東海の上官がここまで来てくれた、手紙で褒められた、食べものをもらったって馬鹿みたいに喜んで、簡単に懐柔されちゃってさ」
「どうだった、生身の『新幹線』は」
つばさは素直にうなずいて
「嫌味は、なかった」
思いだし、思いだしして
「姿勢もよかった」
こたえた。
「たくさん笑ってた、こわくなかった、びっくりした」
そして、口調があらたまる。
「さっき手紙をよみました。達筆じゃないけど、丁寧な手紙でした。達筆じゃないから、代筆じゃないのがわかります。懸命なんだと、わかります」
いちど目をふせてから
「だから、月を見てたんです。こんな子供っぽいこと誰にも言わずに整理できるはずだったのに、本線がビールなんか飲ませるから」
奥羽をかるくにらんだ。
「そうかそうか、悪いことしたな」
奥羽がいなす。
「まったくです」
「しょうがないよ。おれは本線で、おじいちゃんだからなあ」
「……おじいちゃんなら、許してあげます」
つばさが笑う。やっと。
「サンキュ」
「部屋に、とっときの地酒があるんですが」
「お」
「四合壜なので、みんなに振舞うほどはないんですよね」
「じゃあ、さば缶と粗塩でも持っていこうかな」
「お待ちしてます、おじいちゃん」
 月は高く、夏の窓にかかっていた。
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削谷 朔(さくたに さく)
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山形新幹線×東海道新幹線が好きです。
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