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青春さまの青春鉄道、紙端国体劇場作品の二次SSブログです。 同人、腐、女性向けなどに理解のない方、義務教育を終了していない方は、ご遠慮ください。 実在の個人、団体、鉄道等とは一切関係ございません。

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 「景色」の続きになります。
 山形新幹線の開業直前の五月です。

 拙ブログを訪れてくださるかた、ことに拍手を下さったかた、ありがとうございます。
 たいへん励みになっております。更新にむらがあって、申し訳ありません。
 これからも、たまに、のぞいていただけると嬉しいです。

 メッセージを下さったMさまへ。
 幼時の急行はとを愛でていただきまして、ありがとうございます。
 なんだか東海道新幹線至上主義なんだなと、書いててようやく自覚する次第です。
 はとは、いい子だったと思います。

+ + + + + + + + + +

ひだまり

 天気のいい、ゴールデンウィーク明けのある日。
 研修中の山形新幹線は運輸所から電話をかけた。東海道新幹線に助言を求めるためである。
 最近、宿舎で話すことが増えた高速鉄道の先輩は、印象に反して率直で、篤実な人柄だった。準備期間のみじかい自分のために私室で教えてくれたり、手製の夕食にたびたび招いてくれたりした。
 あるとき山形が味噌汁をつくったら、ふうふうと一口、あじわいながら二口、三口めはこくこくと熱いまま飲みほし
「うまい」
と、はねっ毛を揺らしておかわりをした。
 べつの日に、忙しいし面倒だからと東海道がシャワーのみで入浴をすませる習慣だと知った山形は、食事の礼にと風呂をたてて、さら湯をすすめた。
 べつにシャワーでいいのだ、世話をかけることではないと遠慮する彼に
「どっちにしてもおれは入るから、手間はいっしょだず。それとも湯につかるのは嫌いけ」
問いかけると、ちらりと視線がおよいだ。業務中の迷いないすがたとの差に、自然と山形の腕がのびる。脱衣所のドアをあけ、ついと東海道の背を押しやった。さらにバスルームのとびらを開き、入浴をうながす。流れる湯気の香にふわりと瞳をぼやかし、東海道はだまって脱衣所のドアをしめた。
 ふろあがりに冷たい緑茶を手わたす山形を、東海道は上気した顔で見あげた。それから時々、山形の部屋で風呂をもらっていくようになった。
 なれぬ職場、過密な課題に多忙だが、同僚にめぐまれておおむね順調だ。はやく仕事を身につけて首都圏とふるさとをつなぎたいと思ういっぽう、公私ともに盛りだくさんの現状をこころよく感じているのを自覚している。
 にわかに交流のふえた東海道は新幹線の初代で、かつ現役である。いつでも、なんでも訊いてくれてよいぞと気さくに教えてくれるので、言葉に甘えて、今日は電話で質問をしたのだ。忙しいBTに、なかば私用の電話をかけるのは気が引けたが、もともと山形は過剰に気を遣うたちではなく、研修がすすむことが全体の利益につながると合理的に考えた。
 電話線を通して助言してくれるものと思い込んでいたら、東海道はふたつ返事で運輸所までやってきた。そして、じっさいに走るものならではの視点と実感で、もともとの疑問点だけでなく広範に話をしてくれた。山形は要点をメモにとり、研修担当の職員たちは聞き入って、まさしく講義であった。
 その後、おそい昼休憩を公園でとった。二人でものを食べるのは、すでに当たりまえになっていた。
「おもしろいな」
すべりだいを逆さからのぼろうとしては失敗して転がる幼児を見て、東海道が笑む。
「まぶしいな」
木漏れ日をうけて、目をすがめる。
「きれいだな」
サンドイッチの断面を見つめて、つぶやく。
「楽しいなあ」
それら表情のいちいちに、山形は驚いた。
「きれい? サンドイッチがか?」
「ただの、パンとハムとレタスなのだが」
白と赤とみどり。たしかに彩りはいいが、平凡な取りあわせだ。
山形が黙っていると
「こうしていると、つくづく鮮やかだと思ってな。あ、また」
砂場のむこうでよちよち歩きの子供がよろめいて、しりもちをついたのをとらえて
「子供というのは、おもしろいものだなあ」
軽々とはずみをつけて立ち上がる生きものに目を細める。山形はその彼に目を細めて言った。
「それは、めんこいってことだか」
おもしろいとは、おかしい、こっけいな、から楽しい、興味ぶかいまで意味あいがひろい。そのときの彼は、いつくしんでいる目をしていると山形は感じた。
「めんこい?」
「あ、すまね。…かわいいってことだず」
「ああ、かわいいか。そうだな、うん」
しばらく、つぶやきながら遊ぶ子らをながめて、
「そうだ、かわいいぞ。これがかわいいということなのだな、山形」
得心がいったとうなずいた。
「今日は、学ぶことが多いな。外で食べるのがこんなに開放的なものだとは知らなかった」
「子供が、めんこいってことも?」
「鉄道に子供は少ないからな」
「お日さまが、眩しいってことは」
「知っていたが……このところ、以前よりも眩しいのだ。不思議なのだが、いろいろなものが色あざやかに美しく、私に迫ってくるようなのだ」
 東海道のまつげが、いくつかまたたく。不器用に情感をあらわす、その素直さ。
「この昼食も、遠足のようで楽しいぞ」
山形新幹線は、不可思議ながら納得していた。彼は特別な存在なのだ。
(なあんも、しらねんだなあ)
 われわれはみな人ではないが、それぞれにプライベートをもち、自分らしく暮らしている。
 自分より長く生きているひとだ。さまざまな経験をしてきたはずだ。知識も、実力も、実績もあり、さらに勉強と開発を怠らない稼ぎ頭。精神的にも技術的にも収益としても、この国の鉄道のトップに立つ存在。
 それゆえに、ほかのことはおろそかにしてきたのかもしれない。以前は花形特急として、今は新幹線として走るだけでせいいっぱいなのかもしれない。
 そういえば、山形が部屋で音楽をかけたら驚いていた。豊かだな、趣味があるのだなと言った。そのときは理解できなかったけれど、彼の中には、趣味や娯楽といった領域が少ないのだろうか。そうだ、料理だって味は二の次だと言っていた。睡眠も、とらねばならないと言っていた。彼の理屈はいつも「~すべき」で始まっていたような気がする。
(……それは、さみしいべや、東海道)
だから、山形は驚いたのだと思い至る。その東海道の口から、「楽しい」と言うことばが出てきたことに。
(ずうっと、そうだったんけ、東海道)
 きれい、嬉しい、おいしい、楽しい。評価ではなく、数値や達成ではなく、素直な思い。自然と胸のうちに生まれることが、貴重なほど稀であると。
(それは嫌だなあ。おれが、それは嫌だず)
 こんな時間を、こんな思いを増やしてあげたいと山形は思う。それこそが自分の望みだと、いま自覚した。同時に、偽善的だと自戒する。山形とて、何十年と生きてきた。彼の笑顔が増えることが幸せだなどと、どんなおとぎばなしかと。
 けれど、自分のこころが向かうものを、否定することはできなかった。
 もっと見たい。かまえない東海道を、情趣にさやぎ、やわらかな花を開いていく彼を。
 その変化をもたらすのが、まず自分であるなら、どんなにか幸せかと。
 いろいろな入浴剤をそろえてみようかと考える。その日の気分で、好きなものをつかってもらおう。
(迷いながら、真剣にえらんでくれそうだずなあ。ほかに、なにか、東海道の楽しいこと。昼休みは、あと20分)
公園の時計を見あげると
「そろそろいくか」
それに気づいた東海道が、ひざのパンくずを払う。そういえば、このひとは意外と食べものをぽろぽろこぼす。めんこいべ、と山形は笑った。
「なんだ、山形」
むっとした彼に
「いんやあ。まだ少しあるで、遠まわりして戻るべ」
自尊心を傷つけることはいわず、散歩にさそう。
 たちまちはねっ毛がぴんと立って、東海道の心がはずんだのを示した。
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削谷 朔(さくたに さく)
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山形新幹線×東海道新幹線が好きです。
でも基本的に雑食、無節操ですのでご注意ください。
鉄分のない駄文ですが、よろしければ覗いていってください。
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