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青春さまの青春鉄道、紙端国体劇場作品の二次SSブログです。 同人、腐、女性向けなどに理解のない方、義務教育を終了していない方は、ご遠慮ください。 実在の個人、団体、鉄道等とは一切関係ございません。

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めでたし 1の続きです。
終わりました。
山陽、山形、九州上官のときは、東海道上官はうろうろしなかったと思います。

+ + + + + + + + + +

めでたし 2

 しゅり、しゅり、しゅり。
 硯の面を墨がすべり、独特のにおいが立つ。
「疲れた! ねえ、もう墨汁使おうよー」
地道な作業に音をあげたのは活発なみずほだ。
「だめだよ、これは書初めなんだから。ねえ長崎、私できたよ、これくらいでいい?」
「まだ薄いわね」
みずほをたしなめたさくらは、しかし長崎新幹線に駄目だしをされてぷっとふくれた。
「薄墨は不幸のときにつかうものだから、お正月にはふさわしくないわ」
淡々という長崎新幹線は、朱色の墨を擦っている。そんなやりとりのあいだに、おかっぱのつばめは黙々と手をはこんで、三人娘のなかでいちばん早く擦りあげた。

「九州、書けました」
「見て見てー」
「九州、私のも!」
 九州新幹線の部屋に、三人の少女がにぎやかに飛びこんでくる。新調した晴れ着はまだ着ていないが、華やかなものだ。九州新幹線は眼鏡の奥の目を細めた。少女たちのうしろから同胞の長崎も入って扉を閉めた。
 みずほの書初めは「全国せいは」、さくらは「カンセンジャー」、つばめのは「黒字になりますように」である。
 九州はそれぞれを褒めると、今年もがんばるようにと諭しながらお年玉を配った。働く三人にとってはたいへんな帰省ラッシュ、Uターンラッシュのつづく年末年始だが、楽しみも多い。少女たちの笑顔に九州や長崎も激務の疲れがやわらぐ。
「ねえ九州、忙しいから無理かもしれないけど」
 大人たちの機嫌がいいのを見てとって、さくらが切り出す。
「あの…、無理だったらいいんだけど」
おどおどとつばめが続ける。
「私たち、東京に行きたいの!」
みずほが大きな声をはりあげた。
 おや、と長崎が九州を見る。
「行ってどうする」
たずねる九州に、
「せっかく振袖着るんだし、みんなに見せたい!」
「あっちには子どもの鉄道がいるから、カルタとかして遊びたい、です」
「それに東は新幹線がいっぱいいるでしょ、お年玉いっぱいもらえるもん!」
さくらとつばめ、そしてみずほが本音をぶつけた。
 ふむ、と九州新幹線は眼鏡の位置を直した。さいわい現在の運行は順調だ。
「そうだな、おまえたちの晴れ姿をみせびらかしてやるのも悪くない」
許可を得て、三人娘たちがわっと歓声をあげた。
「では、運行はお任せください」
心得たとばかりの長崎は
「おまえも行くのだ、長崎」
九州の指示に目をみひらいた。
「九州の責任者は私だからな。繁忙期であることだし、留守は私が守ろう」
長崎もたまには羽をのばすように、という意味だ。
「吝嗇家の駄ばとが、どんな顔をしてわが娘たちにお年玉を弾むのか、しっかり見て報告するように」
長崎新幹線と小さな三人の新幹線たちは顔を見あわせて、おどけた敬礼でこたえた。
「YES、九州」


 しゅっ、しゅっ、しゅっ。
 秋田新幹線の長い長い黒髪を、北陸新幹線がとかす。それからきつく束ねて、くるくると巻き上げる。
「もう長野じゃないのに、まだやってくれると思わなかったよ」
「やりますよ。美容師みたいに上手だって褒めてくれたのは秋田先輩じゃないですか」
「もう十年以上前だよね。…小さい手で、ていねいに結ってくれて。大事な日は、きみに上げてもらうと後れ毛のひとつも出ないから」
「はい、できました」
 靴も髪型も服装も爪のさきもきちんとしていることを互いにチェックして上官室に行くと、仲間たちはすでに揃っていて、みな、隙なくととのった身だしなみをしている。
「若造がいちばん遅いとは、東はずいぶんと緩いようだな」
めでたい日だというのに嫌味をぶちあげるのは、もちろん九州新幹線。いいじゃない間に合ったんだから、と口をとがらせる秋田を制して応じたのは北陸だ。
「あなたにも、やっと後輩ができますね、九州」
にっこりと、ふてぶてしく返す北陸に、
「活きのいいのは嫌いではないぞ、ぼうや」
にやりと底意地のわるい笑みで九州が返した。
 うわあ、と山陽新幹線がおもわず周囲を見わたす。東北新幹線はいつもの無表情、山形新幹線はおそらく面白がっている無表情、上越新幹線は早くもカメラをかまえてシャッターチャンスを待っている。
(他人事だと思って、こいつら……)
山陽は、最後におそるおそる東海道新幹線を見た。東海道がどんな反応をしていることか。彼は九州と並ならぬ縁があって、九州を蛇蝎のように嫌っている。そして東海道も九州も山陽が唯一の直通相手なのである。 
(東海道のやつあたりも九州の不機嫌も、とばっちりを受けるのは俺なんだぞっ)
 ところが、山陽の心の叫びに神仏の慈悲があったのか、東海道はまったくこの応酬を意に介していなかった。
 うろうろうろうろ。
 冬眠前の熊よろしく、ドアの前を行ったりきたりしている。早くドアが開かないかと待ちかねて、意識を持っていかれているのだ。
「東海道、そわそわして、きみが初めて来たときみたいだ」
なつかしそうに、秋田が北陸に伝えると、へえ、と北陸は改めて東海道を見る。すると
「秋田のときも、東海道はああだったぞ」
東北がぼそりと言って、上越もうんうんとうなずくから、
「え、僕のときも?」
今度は秋田が東海道をふりむいた。
「おまえらが来たときも、そうだったよ。赤ん坊が生まれるのを待つ新米パパみたいだった」
山陽が笑みを含んだ声で双子新幹線に教える。
「……そうか」
「知らなかった」
東北と上越も小柄な先輩が扉の前を行ったりきたりするのを眺めて、黙った。
「まったく、いつまでも落ち着きのないやつめ」
九州の言葉にも、いくぶんか棘が少ないのを感じて、山陽の目がさらに優しくなる。

 コン、コン。

 ゆっくりした、礼儀正しいノックに東海道の動きが止まった。彼は磨かれた踵をそろえ、背筋をのばす。小柄なはずの体躯が、一瞬で堂々たる立ち姿をみせる。倣うように、みなが姿勢をただした。
 仲間たちの張りのある、誇らしげな顔をたしかめて、東海道新幹線が告げる。
「入りたまえ」

 春三月。
 上官室の扉を開けて、北海道新幹線がやってくる。
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削谷 朔(さくたに さく)
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山形新幹線×東海道新幹線が好きです。
でも基本的に雑食、無節操ですのでご注意ください。
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