青春さまの青春鉄道、紙端国体劇場作品の二次SSブログです。
同人、腐、女性向けなどに理解のない方、義務教育を終了していない方は、ご遠慮ください。
実在の個人、団体、鉄道等とは一切関係ございません。
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めでたし 1
しゃか、しゃか、しゃか。
JR西日本の在来線が集まるなか、涼しげな音がひびく。
クリアな氷、クリアな音、細かな氷片に鮮やかなシロップ。猛暑だというのに弱冷房の控室だが、いまは避暑のおもむきだ。
「よっし、みんな食べてるなー」
ひとのいい声は、手動で氷を削っていた山陽新幹線だ。久々に顔をそろえた会議のあと、かき氷機と純氷、複数のシロップ、餡子にバニラアイス、いつのキャンペーンでもらったのかイコカ柄のエプロンまで持参して部下たちにふるまっている。
「赤穂が呉を追っかけてったぞ」
岩徳線がメロン味をかきこみながら指摘した。仮にも上官に対して敬語のひとつもないが、西日本の在来はたいがいこんな感じだ。
「あー、そっかあ。でも俺もう行かなくちゃなんだよね、仕事。ひとそろい置いてくから、悪いけどあとはセルフサービスで」
困ったような笑顔で頼む山陽のエプロンを、氷イチゴの器を空にした福知山線がはぎとって
「汗だくだな。更衣室でシャツかえてから行ってください」
濃緑の上着を渡して追い出した。
「いってらっしゃーい」
北陸本線が小豆のついた匙を振る。いってきますと茶髪の新幹線は足どり軽くでていった。
「十何皿もかき氷つくって」
「汗かいて」
「自分は食べよらんのに、まあ」
奇特なひとだと部下たちは思う。
「まあ上官は、あれでほんとに嬉しいんじゃけ」
「ええじゃろ」
ともに宇治抹茶をなめる山陰本線と山陽本線の言に、みんなして頷いた。
しゃっ、しゃっ、しゃっ。
けんめいなリズムが山形新幹線の眠りをさましたのは、そろそろ肌寒くなってきたある朝のこと。足音をしのばせて明かりのもれるダイニングキッチンをのぞくと、東海道新幹線が鰹節を削っていた。電気釜からは香ばしい蒸気がふいている。
鉄道の稼ぎ頭でありビッグネームである彼は、ふだんは市販のだしのもとや削り節を好んで使う。多忙な身にとって時は金なり、費用対効果についてたいへんにうるさい男で。
しかもひじょうに不器用だ。
(あ、危ね)
手首によぶんな力が入って無理に削ろうとしているのか、硬い鰹節がすべる。おそらく削ったほとんどが粉になってしまっているだろう、いかにも慣れない手つきだった。
(指までいっしょに削りそうだず)
はらはらしながら、自分がやれば手早くきれいに削れると思いながら、山形はもう一度ふとんにもどった。寝たふりをして、気づかないふりをして、東海道に起こされなければならない。
(きっと前髪さピンと立てて、朝ごはんだぞって得意そうに起こすんだずな)
それに驚いて、喜んで、うまいと言うのが自分の役目だと、山形はそっと目をとじた。
「うまい! おいしいよ兄さんっ」
その日の昼、ジュニアは興奮ぎみにおかか握りをほおばった。大好きな兄がつくったお握りというだけでジュニアにとってはご馳走だが、じっさい美味だった。戦前に食べていた握り飯に似た、素朴で力づよい味わい。
「そうだろう。山形の新米だ」
東海道はふかくうなずいた。
おなじころ、奥羽本線は山形新幹線の弁当をのぞきこんでいた。
「おかかのおむすびですか、上官」
「んだ。今年の『つや姫』だず」
「そりゃ、うまいっすね」
同郷の本線のことばに、山形はおむすびを大事にてのひらで転がした。
「うめえよ。新米も、おかかもなぁ」
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プロフィール
HN:
削谷 朔(さくたに さく)
性別:
非公開
自己紹介:
山形新幹線×東海道新幹線が好きです。
でも基本的に雑食、無節操ですのでご注意ください。
鉄分のない駄文ですが、よろしければ覗いていってください。
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