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青春さまの青春鉄道、紙端国体劇場作品の二次SSブログです。 同人、腐、女性向けなどに理解のない方、義務教育を終了していない方は、ご遠慮ください。 実在の個人、団体、鉄道等とは一切関係ございません。

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こんにちは。ちょっとした断片です。
九月の下旬ごろの、ジュニアの書庫でのこと。
ジュニアはお兄ちゃんのためにジュニアになったとか。
意志によって「兄弟になる」。いいですね、すごいことですね。
東海道兄弟と京浜東北線が出てきます。京浜東北、大好きです。念のため。

+ + + + + + + + + +

The Candle

むかしの闇は、ほんとうに暗かった。
いまではどこにもない、すべてを呑む。
街灯も信号も、民家の明かりも絶えた、月のない夜。
底なしの無音。
牡丹の散るこえも膚を刺すほど、静寂の。

静寂の闇をひらいて、とつぜんに。
地響きが地を裂き、煙が空を割り、汽笛が万物をどよめかす。
そして光が、駆け抜ける。

そのむかし、強いものは、こわいものだった。
柔くも優しくもなく、圧倒する存在だった。
鉄道は、新たな時代の申し子。
望むと望まざるとにかかわらず、暴力的に新世界をつれてきた。
その名を官設という。
または東海道本線と言う。
わたしの自慢の弟だ。


「なんだ貴様、ノックもなしに」
 二重にカーテンをしめた部屋で、濃緑の制服姿が戸口に向きなおった。金色の紐が白色灯にひかる。
(なんだとは何だ、あなたこそ東海道本線の書庫になぜ勝手に入っているんだ)
甲高い声に京浜東北線は瞬時に気分を害したが、同時に、誰何をしたのがこの部屋の持ち主の兄、東海道新幹線であることもさとって
(やっかいな)
不満を表すことをあきらめた。
「失礼しました。いらっしゃるとは知りませんでした」
「迂闊だな、気をつけろ」
 東海の上官は棚から抜いたらしい古いものを手にしたまま、叱責する。たしかに迂闊だった。まさかここに余人がいるとは思いもしなかった。しかし。
(ここはあなたの場所じゃない。東海道本線の、とりわけ重要なものをおさめた書庫だ。その手のなかのものだって博物館にあってもおかしくないはずだ。なぜあなたが勝手に触っているのだ)
京浜東北の本音は苦い。
「YES、上官」
了解と会話の打ち切りを一言ですませて、慇懃に無視する体で本線に頼まれた書類を集めていく。
(ジュニアは、あんたには喜んでこの部屋をフリーパスにするんだろうよ)
無視などという幼稚なことは京浜東北の本意ではないのだが、平静をよそおうので手いっぱいだった。
 ベストトレインとよばれるこの上官を、嫌っているわけではない。徹底して誇りや収入を求める姿勢や、開業以来の実績は尊敬にあたいすると認めざるをえない。
 だが、自分にとって、そして昔ながらの同胞たちにとって筆頭といえば東海道本線だ。この国の鉄道のルーツ、指針、よりどころ。彼が走っていることで国じゅうの鉄道がたしかな力を享ける、そんな存在。
 時代が下り、仲間が増え、上下関係もゆるくなった。そのうえ東海道の「兄さん大好き」ぶりはJR内ではすでに有名なのだが、それでも東海道本線の影響力は変わっていない。それは東海道によるものでなく、彼に影響をうけるものたちの問題だから。
 東海道本線はずっと依られる存在だったから。
 ちらりと見ると、東海道新幹線は手にしていたものを封筒におさめている。不器用なのか、やけに時間をかけて。上等の、だがたいそう昔のカードや手紙。それらは東海道が処分せず大切にしているものだ、そもそも信書ではないのか、他人が触ってはいけないのではないのかと猛烈に咎めたくなるのを抑える。
(あと、ファイル二つ。早く見つけて退散しよう)
 いつか京浜東北は、東海道新幹線のポスターやグッズで埋めつくされた部屋を見て、よかったね、君もよりどころをみつけたんだねと心から思った。思ったのだが、同時にこの部屋はほかの誰にも見せるなと厳重に申し入れをし、彼ではなく、彼の兄の存在を憎んだ。
 東海道新幹線のせいではない、この上官は悪くない、嫌いでもないし評価もする、東海道本線にとっても有用な存在だろう、が、許せない。
 東海道本線を、ただの「弟」にしてしまった新幹線が。
 理屈でなく、気持ちがおさまらないのだ。何十年と経っても。

「兄さん、きてたの!」
不愉快なことを考えながら必要なものを揃えたころ、ようやく東海道本線がきた。上官の姿をみるやとびこむ勢いになるのに、ほんのわずか眉をしかめる。
「ああ。勝手に見ているぞ」
童顔のくせにいつも偉そうな上官がジュニアに笑顔をみせたので、京浜東北は舌打ちをしそうになった。
「もちろんだよ兄さん、奥からもだそうか? さがしてくるよ」
「いや、かまわん」
いつもの落ち着いた本線面はどこへやら、満面の笑みではしゃぐジュニアを、ああ、いま音を立ててストレスが消えてってるな、これでしばらく機嫌がいいね、と観察して、京浜東北は踵をかえす。
 頼まれた書類はジュニアの引き出しに入れておこう。彼がジュニアという軽やかな呼称で呼ばれることになったのは、けっして悪いことではないのだ。
 京浜東北は目をふせて、兄弟の邪魔をしないよう、書庫の扉を閉じた。
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削谷 朔(さくたに さく)
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山形新幹線×東海道新幹線が好きです。
でも基本的に雑食、無節操ですのでご注意ください。
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