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青春さまの青春鉄道、紙端国体劇場作品の二次SSブログです。 同人、腐、女性向けなどに理解のない方、義務教育を終了していない方は、ご遠慮ください。 実在の個人、団体、鉄道等とは一切関係ございません。

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ひさしぶりに、日常の断片を書きました。
たいへんご無沙汰いたしまして、すみませんでした。
ごぶさたのあいだに、奥羽越の企画本と京浜東北線のアンソロジーに
参加させていただきました。ご縁があったら覗いてくださると嬉しいです。
(奥羽越本のコメントを下さった方へ。お言葉、ありがとうございました!)

もうじき今年が終わりますね。
今年も青春鉄道のおかげで、楽しく速い一年間でした。
もろもろ、皆々様、ありがとうございました。

以下、断片です。東海道と山形といつもの上官たち。

+ + + + + + + + + +

 わけありごと
 
 ある夜のこと、秋田新幹線が鼻歌まじりで宿舎に帰ってきた。両腕に余るスチロールの箱を軽々とかかえ、スキップのステップで。
 上機嫌の食欲小町を迎えた同僚たちは、条件反射で何の食べものだろうと考えた。共同のリビングで秋田がキュキュ、と摩擦音をたてて蓋を開けると、現れたのは箱いっぱいに詰め込まれた氷と大量の魚のアラだった。
「地元で分けてもらったんだ、大漁だったんだよ!」
魚の頭や骨や血合いに、上越新幹線のこめかみがひきつる。生々しいし、たくさんの目玉はぞっとしない。
「今朝のとれたてを小分けで冷凍してもらったから、みんなも食べてよ」
小分けというには大きすぎるビニールの包みを秋田は同僚にひとつずつ配っていく。
「食べるのか、これを、調理して…?」
東北新幹線が無表情につぶやく。困ったな、作るのも食べるのも面倒そうだ、そうだ本線にやろう、と考える。
「へえ、アラっていうんですか、こういうの」
長野新幹線は目を輝かせてのぞきこみ、ビニールの上から興味深く触っている。
「魚はさ、三枚におろして身を取るだろ。その、取った残りのところ。使いやすくはないけど、いい味が出るんだよ」
山陽新幹線が後輩に教えた。
「そう、こんなにあるのにタダでもらっちゃったんだよー」
きらり。タダと聞いて、東海道新幹線の目が光る。
「うまくて安くて量も栄養もたっぷり! 」
「秋田、アラの利用法を教えろ」
幸せいっぱいの秋田の言葉に東海道が食いついたのは必然だった。

 焦げた味噌の香ばしさ、酒と魚の出汁だけの素朴なうまみ。寒い夜に窓ガラスが曇るほど湯気を立てて、二人きりで土鍋をつつく。
「うん、うまい。アラは流石だな!」
 夕飯はアラの土手鍋にした。東海道新幹線の希望だ。
 骨についた身を梳いて中落ち丼にしてもおいしいよと秋田は教えてくれたのだが、素人が生ものを作るんは恐ろし、と山形新幹線が言ったので鍋になった。一食では食べきれないから、次はカマを焼こうと約束もして。
「骨が多いで、あぶねえよ」
「そうだな、だからこそ安く手にはいるのだな、まさしくリーズナブル。R・E・A・S・O・N・A・B・L・E、リーズンがエイブル、REASONABLE!」
東海道はご機嫌だ。アラの安さに浮かれて、ふだんよりさらに声が高い。
「わがったから、気いつけて食べ」
山形は苦笑しながら中身の減ったとんすいを引きとり、骨や皮をガラ入れの鉢にあけ、土鍋からなるべく身の多いところを再びよそって、おかわりを手わたす。
「ほれ、野菜も」
しんなりと茶色く味のしみた根菜ものせてやる。東海道はなにかに夢中になると手もとがおろそかになるのだ。
「理由が分かるのはよいことだ。安さには必ず理由があるからな。それが曖昧では消費者の安全がおびやかされる」
「んだな、安かろう悪かろうではいがんな、とくに口に入るもんは」
「その点、アラは素晴らしい」
「そのぶん手間暇かかるで、集中して食べなっせ」
東海道は、不器用な自分が骨やうろこで怪我をしないかと気遣われているとは気づかない。
「手のかかるところもいいな、遺伝子に組み込まれた狩猟本能が刺激される」
「んだか」
「そうだ。また、骨や頭をせせるには手と頭を使う。時間も集中力も要る。時間をかければ満腹感、満足感を感じやすくダイエットにも適している」
「…んだか」
「そうだ。これを活かさない手はない。なにしろ原価が安い。」
「……」
「鍋ものなら展開次第では高級感を出せるし、世の女性はダイエットを喜ぶからな。マナー教室かエステの付加価値をつけても儲かるか」
「東海道」
ひとつ低い声で、山形が口をはさむ。
「あるいは子ども対象に箸づかいと脳トレの企画はどうだろう。子どもがアラ鍋で箸づかいと知力をおいしく訓練する間、両親には別のツアーを設定して第二のハネムーンを楽しんでもらえばダブルで稼げる。悪くない」
「東海道」
さらに低い声をだすと、ようやく東海道が山形に意識をむけた。
「なんだ。確かにアラの良さを教えてくれたのは秋田だが、東にビジネスチャンスはやらんぞ」
自分のアイディアに疑念はないらしい。無邪気な吝嗇家め、と山形は目を細める。
(いくらか悔しくもあるんだげっども、なあ。それがおめさだで、しゃあねえべ)
 儲けばなしをしているときの生き生きしたさまは、俗で正直でまぶしい。自分とは違う、シンプルな実力。努力と開発が世のなかの進歩や発展に資するという信念、みずからの働きや稼ぎで数多のひとびとを支えているという自負が、このひとをまっすぐに走らせていると山形は思う。
「ええから、食べなっせ。冷めてまうよ」
「あ、そうだな」
あわてて箸ととんすいに意識をむけるのを、めんこいと見ながら。
「魚はなぁ、苦手なひとも多いべ。アラには血合いや筋もあるがら、慣れないと気味悪がられるかも知れねえし」
「む。…それは、魚に失礼だな」
眉をよせる東海道に、獲ってあやめて食べておいて、いまさら失礼もねえべと思いつつ、顔にはださず言葉をつづける。
「アラは確かにうまくて安くてエコだけんど、だからこそ高い値段は付けられね」
「そうか? それは宣伝の持っていきようではないのか」
「アラが安いのは周知の事実だず。今の人は面倒ば嫌うしな」
「そうか…」
口の端が不服そうに下がっている。しばらくそれを眺めて、仕方ねえ、と山形はひとくちアラを食した。
「それに」
「それに?」
「…っ」
いきなり山形がのどをおさえて背を丸めた。
「山形!?」
目を閉じ、息をつめ、眉間にしわをよせて声も出せない様子だ。
「山形、どうした、やまがたっ」
東海道はにわかに涙目になって、山形をぶんぶんと揺さぶった。

 山形の喉に骨が刺さって、その晩は大騒ぎになった。正確には、うろたえた東海道が宿舎じゅうの同僚を呼ばわって、さらに東海道と長野がとりみだして山形にしがみついて、ことを大きな騒ぎにした。
 さいわい、秋田のまるめた白ご飯の丸呑みが功を奏して大事には至らなかったが、東海道のショックは大きかったようだ。
「よかった、よかった……山形」
同僚たちの見守るなかで、蒼白になって山形の手を握りしめ、
「こんなに危険なら、商品化はできないな」
ふるえる声で自分の思いつきを引っ込めた。
 ところで、東海道の手をうなずきながら握りかえす山形を見て
(商品化とは、なんの話だ)
(山形、なんか笑ってないか)
(ほんとうに骨が刺さったのか……?)
なんともいえない違和感に脱力した同僚は、ひとり二人ではなかったという。




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削谷 朔(さくたに さく)
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山形新幹線×東海道新幹線が好きです。
でも基本的に雑食、無節操ですのでご注意ください。
鉄分のない駄文ですが、よろしければ覗いていってください。
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