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青春さまの青春鉄道、紙端国体劇場作品の二次SSブログです。 同人、腐、女性向けなどに理解のない方、義務教育を終了していない方は、ご遠慮ください。 実在の個人、団体、鉄道等とは一切関係ございません。

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東海道新幹線開業50周年、そして急行はと開業記念日おめでとうございます。
という気持ちで山形×東海道SSです。
平成26年9月30日から10月1日にかけてのお話です。

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evolve

 不意打ちだった。
 品川の宿舎に山形新幹線がいた。オートロックのエントランスに濃緑の長身、明らかに自分の帰宅を待っていた。
 東海道新幹線の心臓が鳴る。
 残念ながら、恋人に会えた喜びからではない。そこはかとない後ろめたさが動悸を速めた。
 JR東日本が管理する建物だが、山形の部屋はない。主に在来線が利用するワンルームマンションに自分が一室を借りたのも東海道新幹線に品川駅ができたからだ。仮眠と物置程度にしか使っていないから、リニアが開業するまではワンルームでもじゅうぶんだ。同じく部屋を持つ山陽新幹線もさほど使っていないここは、首都圏でひとりになるには好都合だった。
 このところ品川に泊まっていたのは同僚と顔をあわせたくなかったから、それだけの余力がなかったからだ。今夜もそうだ。自分の開業日、記念すべき50周年を明日にひかえて疲労困憊。過密ダイヤはそのままに多方面に展開する行事つづきで身体が悲鳴をあげている。表情をつくらず誰とも話さず、ただ寝るだけの宿舎が有難かったのだ。
 しかし、それは同時に親しいものたちを遠ざけるということでもある。
 心身はなじんだ宿舎に帰りたがっているのを東海道は知っていた。疲れ果てた自分に嫌な顔をせず、高速鉄道の仲間たちが声をかけ、手をかけ、心をかけていたわってくれることも、それらが心地よく自分を癒してくれることも。
 本能的な訴えを東海道は今日まで意志の力でおさえてきた。
 いままでは甘えてきたけれど、今年はそうしたくなかった、どうしても。
 雨や風や雪に勝てない自分が嫌いだった。動けなくなって、涙腺がこわれ、ささえてもらう自分が情けなかった。遠い記憶にしばられて怯えたり声を出せなくなる自分がゆるせなかった。
 たくさんの人々によくしてもらった。記念の今年など降るように祝ってもらっている。
 それらにふさわしい自分でありたい。負けつづけるのはうんざりだ。そう思った。
 くじけず、頼らず、強くある。あるべき自分を実現する。
 今年こそ、と決めた。そのようにやってきた。試みはおおむね成功し、寝込むことも倒れることも感情が噴きだして親しいひとに迷惑をかけることも少なくてすんだ。
 トラブルを越えるたび、やればできると自信を深め、克己心を強め。
 それはいいことであるはずだ。正しいことにちがいない。東海道はそう考えながら、深夜に光る無機質なエントランスを見ていた。
(やまがた)
住人ではない山形は、エントランスの壁に立って文庫本を読んでいる。一日の業務を終えた後なのに、寄りかかるでもなく姿勢のいいたたずまいに憧憬する。同時に負けん気が起こって、東海道は疲れきった身体をむりやり立てなおした。
 すると、揺らいでいた気持ちがおさまり、不安がすっとひいていった。
(だいじょうぶだ、これなら心配されまい。情けないところをさらさずにすむ)
たいがい穏やかで余裕のある恋人に、かっこいい自分を見せたいというささやかな見栄もある。くせっ毛と背筋をぴんと立てて、東海道はエントランスへ向かった。

「ほんとうに狭いぞ」
 まえおきして招きいれたワンルームは壁一面の収納家具とシングルベッドでいっぱいで、ベランダに向かって通路のような細長い床が見えるだけ。
「おめさらしい部屋だなあ」
「収納を重視したら、こうなったのだ。ここでは自炊もしないし、いいのだ」
「でも、仕事はするんだずな。ほれ」
収納の一部が簡易デスクになっているのを指差す。その下には椅子がおさまっている。今は机板がたたまれて収納扉のようになっているが、手前に広げれば中からPCが姿をあらわすだろう。
「もちろんだ。そのための部屋だ」
「仕事場に、いきなりおしかけてすまねえなあ」
「かまわんが……」
 どうして来た、とは問えなかった。多忙にかこつけて山形のいる高速鉄道の宿舎にずっと帰っていなかったのは自分のほうなので。
 しかし、山形は立ったまま東海道にもたれかかってきた。
「疲れちまってなあ、助けてくんろ」
東海道は抱きとめながら驚いて恋人の顔をのぞきこむ。たしかに、目の下にうっすらと隈ができていた。
「だ、だだ大丈夫か山形、具合でも悪いのか」
自分のほうがよほど濃い隈をつくっていることは棚に上げて、あわてる。山形が東海道に助けをもとめるなんて、めったにないことなので。
「体調は悪くね。ただ、おめさほどじゃねえけんど、こっちも忙しくてなあ。いろいろ溜まったんだずなあ」
「そうか、山形DCもあったし、鉄道の日も近いし、たいへんだったのだな。それで私のところに来るのはよいことだ。うむ、たいへんよいことだ」
東海道は、うんうんと首を振りながら山形を見る。体調不良でなくてほっとした、頼りにされて誇らしい、そして仕事以外で山形と会えて、やっぱり嬉しい、そんな思いが自分の疲れを吹き飛ばすのを感じる。
「ユニットバスだが風呂を沸かそう、ベッドも使っていけ。食事はしたか。コンビニでなにか買ってこようか。とにかく、ゆっくり休んでいくのだぞ」
「んだら、充電」
山形が、東海道にもたれかかったままベッドにこしかけた。一瞬、制服を脱がせたほうが楽になるのではと考えたが、山形が無心にくっついてくるので気の済むまでどうぞとばかりに力を抜いた。
 東海道の胸から、ふう、と大きな吐息が生まれた。

 山形が持っていた丸いおにぎりを二つずつ分けて食べた。海苔がしっとりとして、おいしかった。お茶はなかったが片手鍋があったので、白湯をわかした。湯飲みも茶碗もなくて、なにかの景品のマグカップがひとつだけミニキッチンに置かれているのを見て、山形が笑った。東海道は恥ずかしくて少し無口になったが、ひとつのカップを分けて飲むのは好きだと思った。熱くて、じんわり沁みた。それから交代で風呂をつかい、疲れた山形の髪を乾かしてやった。
「やかんはなくてもドライヤーはあるんだなあ」
「ドライヤーとズボンプレッサーは必需品だ」
「そうかあ」
「床に座って、冷えないか。ベッドに腰かけたらどうだ」
「おれが床で、おめさがベッドに腰かけるのが一番やりやすいべ」
「だが、湯冷めしたら」
「雪国の特急を舐めねえでけろ」
さらさらの直毛は、話しているうちに乾いていく。
(ああ、いいきもちだ)
シャンプーのにおい、湿った手触りに東海道は目を細める。山形の表情をみればこれも目を閉じて、しなやかな猫科の動物のようだ。
「明日も早いで、日付がかわらねえうちに寝るべ」
 あっさりと言われて、東海道のくちびるが尖る。寂しいときのしぐさだ。こんなに近くにいるのに贅沢な、と自戒して、はたと困った。
「山形、ベッドがひとつしかない」
そのことに、やっと気づいたのだ。
「なんだず、いまさら」
山形はおかしそうに目で笑って、東海道をさらうように布団に引きこんだ。
「いやか」
疑問ではないイントネーションで問う。こんなときだけ完璧な標準語など反則だと真っ赤になった。いやではない、いやなはずはないが、今は。
「つ、疲れがとれないだろう、こんなに狭くては」
ピ。
答えのかわりにリモコンで電灯を消された。暗いうえに抱き込まれ布団をかけられて東海道は固まる。
「充電だず。おやすみなす」
おだやかな声音に、緊張がゆるむ。
(そうだった、山形は休みにきたのだ)
間をおかずに規則正しい寝息がしはじめた。
(ほんとうに疲れているのだな。そんなに大変なときに、自分のことにばかりかまけて放っておいてすまなかった。しかし充電とは…いくら電車とはいえ…私はACアダプターでは……ない……ぞ…………)
東海道のまぶたも、またたくまに閉じた。

「…っだに痩せて、がちがちに凝って…」
からだじゅうをさすられる心地よさに、うとうとと意識が浮上した。
「ひとの気もしらねえで、どんだけこらえれば気が済むんだか…」
やるせないためいきと、力ないかすかな声が
「なあ、がんばってて偉いなあとは思うけんども。どんだけ嫌われてねえってわがってても、好いたひとから避けられるのは切ねえもんだずぅ」
ほろほろと東海道の夢に降ってくる。
「やっど触れたなぁ」
起こさないように、そうっとそうっとマッサージをしてくれる手のひらから、いとしいひとの気持ちが注がれる。さみしいような、かなしいようなそれらが東海道の胸をひたひたと満たしていく。
(ちがう、やまがた)
身体はすっかり眠り込んで動かない。
(避けてなどいない。私は、少し忙しくて…、自分だけの力で立ちたくて、おまえにも誰にも胸を張って私がBTだと示したくて。だが、それができるのは、おまえの…おまえたちのおかげなのだ……)
思考は声にならず、
「東海道、よぐやったなぁ。ほんてにめでてえ、おめでとうさんだず。これまでもこれからも、おれが見とるでな」
ああ、日付が変わったのかと思いながら、東海道はふたたび眠りのふちにひきこまれていった。

 明け方、始発からセレモニーのある東海道はすっきりと目覚めた。なごりおしく目のまえの胸板に額をすりつけると、山形も起きて
「あー、よく寝たべ。おしょうしな、東海道」
底抜けに明るく、伸びをしながら礼をのべた。
 夢うつつに聞いた声とはまったく違うひびきに、だまされるところだったと東海道はくちびるを噛んだ。
「どうした、いためるべ」
山形の指が東海道の歯を持ち上げる。指先に赤いものがついた。
 ぺろり。
 舌先で舐めとると、困ったように笑んでいた恋人の顔が変わった。自分が舐めた手に顎をつかまれ、口中を蹂躙される。
「…っ」
うめきは、どちらのものかわからない。
 刺すような眼光、痛いほどの抱擁。苦しいほどだが、いやではない。むしろ狂おしい衝動がつきあげて、東海道もありったけで応えた。

 むつごとに紛らせて「すまなかった」と東海道がつげた。東海道を征服し、堪能しつくした恋人は「置いてかれねえようにせねばなぁ」と返した。不思議そうに見返す東海道にいとおしく口づけて
「おめさはどんどん進化してくから」
と。
 木犀の香る、秋の朝だった。
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削谷 朔(さくたに さく)
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山形新幹線×東海道新幹線が好きです。
でも基本的に雑食、無節操ですのでご注意ください。
鉄分のない駄文ですが、よろしければ覗いていってください。
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