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青春さまの青春鉄道、紙端国体劇場作品の二次SSブログです。 同人、腐、女性向けなどに理解のない方、義務教育を終了していない方は、ご遠慮ください。 実在の個人、団体、鉄道等とは一切関係ございません。

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本日お誕生日の大切なフォロワーさんに贈る、山陽九州です。
贈りものなので、ほかのSSからは独立しています。

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たそがれどき

 特急の象徴、羨望の的、栄えある「つばめ」。いまはJR九州を牽引するカリスマ的存在「九州新幹線」。そのひとが、こんなに不器用でかわいいとは、だれにも教えない。

 おれは新幹線になったことを後悔したことはないけど。心の中でそう前置きして山陽新幹線が話しだしたのは、博多の上官室に初夏の夕日が長い影をつくるころ。
「新幹線になって、よかったな」
ひとりごとのような呟きは空にとけて消えてしまってもおかしくなかったけれど、この部屋を使うもうひとり、九州新幹線は書類から顔をあげて同僚に返した。
「なんだ、めずらしく神妙だな」
山陽にむける眼鏡がひかる。
 山陽はおだやかなまなざしで眼鏡をみつめた。
「九州に会えたからさ」
 夕日のさす室内は懐かしいセピア色にひたされ、いつもは軽口をたたくイケメンに深みのある陰影を与えていた。数瞬間の沈黙がなぜか九州をいたたまれない気持ちにさせたが、山陽のまなざしは変わらず、かつ自然体なのが気に障った。
「そーうかそうか、愚鈍な貴様にも、ようやくわが九州のすばらしさがわかったとみえるな。西が傘下に下るのは、いつでも歓迎するぞ」
気に障ったので、わざと馬鹿にしたように声をはりあげた。誰によるものであれ、揺さぶられるのは我慢ができないたちである。
 山陽はくすりと笑うと
「傘下にはならないよ。第一、山陽九州新幹線とは呼ばれるけど、九州山陽新幹線とは呼ばれないし」
なんと反撃をしかけてきた。
「いやあ嬉しいね、新幹線になってよかった。まさかあの『つばめ様』のせ・ん・ぱ・い・に! なれるとは」
いたずらっぽい笑みが余裕綽々なので、九州の頭に血がのぼった。
「若造が、そこへ直れ! この赤字廃止路線めが!!」
戦前なら抜刀しそうな剣幕だ。これだけで震え上がるものも多い。
「うん。赤字で、走る意味も曖昧で。地元のひとに大事にされるぶん、有り難かったけど、しんどかったな」
 山陽はゆっくりと話す。
「おたがい、いいことばかりじゃなかった。おまえもさ」
夕暮れが深くなってくる。そろそろ電気をつけさせなければと思いながら、九州は聴く。
「つばめの時だって、けっこうしんどかったろ。でなきゃ東海道をいじめたりしないもんなあ」
九州はつばを飲んだ。眼鏡を上げて一拍、平静を保つ。
「なにを、知ったようなことを」
「知らないよ。知らなかった。でもおれ、いまの九州は見てるよ。いじめが本当はいじめじゃなくて、おまえが東海道を構いたくてしょうがないのも知ってる」
九州の肩がこわばった。山陽は気づかないふりで軽く続ける。
「だからさ、新幹線として会えてよかったと思うの。懐かしい、いろんなもん背負った名前じゃなくて、山陽九州新幹線って称されるおれたちで」
「笑止だな。貴様は、東海道山陽新幹線とも呼ばれているではないか!」
「あれ、嬉しいな。妬いてくれちゃってるの」
イケメンは、にやりと。たちが悪いのか意地が悪いのかと九州は内心で頭を抱えた。
「ばかもの、そのふざけた思考回路をどうにかしろ。いいか、東海の手先の言うことなど信じられんと言っているのだ」
「信じなくていいよ」
山陽の長い腕が自分へと伸ばされるのを九州は呆然と見る。
「信じても信じなくても、おれはおれだから。なあ」
眼鏡を外しつつ、山陽は時の流れに感謝する。このガラスに弾かれていると、直通のはじめは感じていた。なんて奴だと憤慨し、脱力し、それでも上手くやっていきたがる自分の性を自嘲したこともある。
 いつだったろう。ガラスの奥のひとみが自分を捉えていると知ったのは。目の色の変化を読みとれるようになったのは。
「ずっと走っていこうな」
この目に映るものを、九州はたぶん知らない。しかし上官室が夕闇に沈んでも明かりを灯せとは命じなかった。かわりに、応える。
「それについては、やぶさかではない」
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プロフィール
HN:
削谷 朔(さくたに さく)
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自己紹介:
山形新幹線×東海道新幹線が好きです。
でも基本的に雑食、無節操ですのでご注意ください。
鉄分のない駄文ですが、よろしければ覗いていってください。
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