青春さまの青春鉄道、紙端国体劇場作品の二次SSブログです。
同人、腐、女性向けなどに理解のない方、義務教育を終了していない方は、ご遠慮ください。
実在の個人、団体、鉄道等とは一切関係ございません。
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おないどし
「はい、山陽にいさんは48個。ちゃあんと数えてあげたからね、残しちゃだめだよ」
節分の朝、ミーティング終了を待ちかねて大袋の炒り豆を取り出した上越新幹線は、縁起物をていねいに和紙の封筒に小分けして、山陽新幹線にわたした。
「おう、一日かけて食うよ。ありがとな」
山陽はふくらんだ封筒の口を二重に折りたたみ、ポケットにしまう。
「ぼくと東北はおないどし、10個ずつ」
歌うようなしらべで薄い封筒をふたつ並べる。10粒の豆は、双子新幹線の歴史だ。
「十年か、先輩だずなあ」
新幹線になって一年もたっていない山形新幹線がのんびりとつぶやいた。
「なに言ってるんだよ、山形のほうが長く生きてるじゃないか。豆、いくつ要るの」
「んだなあ、さいしょに走ってからだと、32年になるなあ」
上越はぱちりと瞬いた。
「もしかして、1960年」
「んだ」
「へえ、偶然だね。ねえ、東海道?」
上越の言葉にひかれて山形と山陽も東海道を見る。すると、上越が叫んだ。
「…東海道!? どうしたの、真っ赤だよ!!」
「な、な、な、なんでもない」
「なんでもなくないよ」
上越はすばやく立って、椅子にすわる東海道の首筋をたしかめる。
「熱はないみたいだね。だいじょうぶ?」
「平気だ、さわるなっ。それより貴様、豆配りは休憩中にしろ、仕事、仕事、そうだ仕事だ、仕事をしたまえ!」
「したまえって東海道、いつの言葉? ほんとにだいじょうぶかな。頭がタイムスリップでもしちゃったの」
「いいから! ほら、そのちょっとばかりの豆を東北に届けるのだろう、はやく行けっ」
東海道の邪険な態度に、さすがの上越も眉をひそめた。低い声で、真正面から言い返す。
「ちょっと、いいかげんにしてよね。東北にも届けるよ。だけどね、例年どおり、このぼくが早起きして水垢離して巫女装束でわざわざ御祓いしてあげた、ご利益たっぷりの福豆だよ。みんなに配ってから行くからご心配なく」
う、と口をつぐむ東海道のまえで、上越はことさらゆっくりと豆を数えて封筒に入れる。
「はい、東海道じいさんのぶん。32粒」
「32粒?」
山形が首をかしげる。東海道は顔をおおって机につっぷした。
「そ。だからさっき偶然だねって言ったんだ。東海道はね、毎年、1960年から数えた年で豆をくれって言うんだよ」
「なして」
「その年に、新しく生まれたんだって」
「新幹線になったのは、もうすこし後だべ」
そこに山陽が口をはさむ。
「うん。だから新幹線開業が起点じゃないんだよな。なにがあったかは教えてくれないんだけど。さ、上越、山形にもやっちまえよ」
「あ、うん。ひい、ふう……はい、32個。きみたちも、おないどしだね」
山形は大事に福豆をうけとる。山陽が立ち上がった。
「じゃ、さんよーさんは仕事に出ますか。上越も行くだろ」
「うん、豆も配ったし」
上越は、炒り豆の大袋のほかに自分と東北の豆を持つ。
「いっしょに行こうぜ。じゃあな」
「お先に、東海道、山形」
無事でいってらっせ、と山形が手を振った。
上官室に二人きりになって、山形はしばらく考えていた。
沈黙がやさしい。
「32年前?」
声をかけると、机のうえで東海道の髪がぴくりと跳ねた。
「うぬぼれてええだか」
できるだけ穏やかに。
「まえに」
おびえないよう、逃がさないように。
「おぼえてるって言ってくれたなあ」
顔をあげず、身じろぎもしない東海道の横にしゃがみ、長い腕を伏せた背中にまわす。
「あの日のことだと、うぬぼれてもええか」
腕で、声で、いとおしさで、この臆病なひとのすべてを包みこみたいと。
東海道の耳が、さらに赤みを増した。
どれだけ時間がたったろう。沈黙のあとに、こくりと東海道がうなずいた。
その答えはたいへんな勇気のたまもので、山形は思わず東海道を抱きしめた。
1960年の初夏、「はと」が廃止になり、「蔵王」が走りはじめた。
ほんとうなら、縁もゆかりもないはずの二人だった。
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プロフィール
HN:
削谷 朔(さくたに さく)
性別:
非公開
自己紹介:
山形新幹線×東海道新幹線が好きです。
でも基本的に雑食、無節操ですのでご注意ください。
鉄分のない駄文ですが、よろしければ覗いていってください。
でも基本的に雑食、無節操ですのでご注意ください。
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