青春さまの青春鉄道、紙端国体劇場作品の二次SSブログです。
同人、腐、女性向けなどに理解のない方、義務教育を終了していない方は、ご遠慮ください。
実在の個人、団体、鉄道等とは一切関係ございません。
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おみくじ
正月も松がとれると隠れ家のような都会の神社に人はまばらで、めでたさはそのままに穏やかな雰囲気が戻っている。業務が落ちつくこのころに東海道新幹線はぶらりと詣でるのが例だった。社の森は神域を守り、新春の気が清い。
二礼、二拍手、一礼。
祈りごとは決まっている。国家安泰、商売繁盛、無病息災。戦前から変わらない、現実的で実用的な信念だ。
生まれたてのころ、大連神社に初めて詣でた日を憶えている。紋付の羽織袴に白足袋をつけて社殿にあがり、守り刀をお祓いしてもらった。満州鉄道の社員に手をひかれ、軍人さんがついてくれた。
街中はにぎやかで大陸らしい原色が目にまぶしかった。満鉄さんや軍人さんはいたるところで道をゆずられ、挨拶をされ、ときに敬礼を向けられた。その地で日本人はいばっていて、大人たちは、それをあたり前に受けいれていた。自分も満鉄の一員として、せいいっぱい胸を張り、大人のまねをして目礼をしたものだ。当時の自分はそれなりに威厳があると内心で自賛していたが、いまから思えば滑稽だ。国の威光をかさに着た彼らも、そのまねをして得意になっていた無知な子どもも。
けれども、神社は肌に合った。雅楽舞楽はここちよく神職の所作は優雅で、清浄な空気が呼吸を楽にしてくれた。見たことも触れたこともないが、自分は日本の流れをくむ鉄道なのだと思った。
そういえば。東海道は狛犬に目をとめた。この神社は全体に大陸風だ。唐様か韓様かはともかく、意匠が大連神社に似ている。むかしを思い出したから、そんな気がするだけかもしれないが。
気まぐれに、おみくじをひいた。
いちおう神妙に、みくじ箋をひらいて苦笑する。
凶。
(私らしい。年始早々、たいへんだったしな。)
事業の項には「苦しいが世の為に頑張りなさい」と。
素直に肝に銘じ、きちんとたたんで財布におさめる。すると、
「なんだ、おみくじば引いたのけ」
聴きなれた声がふってきた。ふりむいて、うなずく。
「ああ。気がむいてな」
休日らしくすこし乱れた前髪から、穏やかなまなざしが覗く。どうだったかと訊いている。
「よかったぞ。ありがたい指針をいただいた」
にこりと、まなざしが笑った。
「おまえはどうだった。池を見てきたのだろう」
「とんびと鴨がおったず。カラスや鳩もいたけんど、すずめはとんと見なくなったなあ」
「そうか。むかしは何処にでもいたのにな」
歩きながら、たわいのない話をする。
「甘酒を売っていたな」
「熱燗もあったまるべ」
空は晴れ、風は冷え。寒いからこそ寄り道もできる。
甲斐ある一年がさりげなく始まっていた。
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プロフィール
HN:
削谷 朔(さくたに さく)
性別:
非公開
自己紹介:
山形新幹線×東海道新幹線が好きです。
でも基本的に雑食、無節操ですのでご注意ください。
鉄分のない駄文ですが、よろしければ覗いていってください。
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