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青春さまの青春鉄道、紙端国体劇場作品の二次SSブログです。 同人、腐、女性向けなどに理解のない方、義務教育を終了していない方は、ご遠慮ください。 実在の個人、団体、鉄道等とは一切関係ございません。

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断片ですが、ひそかに山形×東海道です。
1961年の秋、急行蔵王と奥羽本線、羽越本線、信越本線がでてきます。

拙ブログを訪れてくださるかた、ことに拍手をくださったかた、ありがとうございます。
たいへん励みになっております。
こころから、お礼もうしあげます。

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不忘山

 執念深いはずだがなあと本線に笑われた、あのころ。
 蔵王と呼ばれていた。修行も下積みもないのに初めから優等列車として立ててもらっていたが、そのことの意味にも気づかず、取り巻くすべてを当然として享けていた。
 自分はまだ生まれたてともいえる急行で、物怖じも経験も思慮もなく、日々淡々と走っていた。後に東京を本拠とし、多岐にわたる責任をともなう職掌を拝する立場になって振りかえれば、時代的にも土地柄としても、まったくのどかだったと言わざるをえない。運にも人にもめぐまれて幸福な草創期をすごしたと、あとから感謝するほどに。
 無知、無遠慮な若い部下に、本線は何のきっかけでそう言ったのか。
 記憶は、むかしの宿舎の庭さき、日の暮れた林のなかに立つ自分にかえった。
 清澄な空に意識がほどけ、薄くさやかになって、ひろがって自然に溶けていた。木々にまぎれて秋風をうけ、鳥たちのおとずれを楽しんでいた。故郷のかたちは星影にうかび、月光の細かいかけらがさらさらと自然のつくりを縁どっている。目を閉じ、心をひらいて、それら静謐なものとひとつになるときが、当時いちばんのよろこびだった。
 その夜は、特別だったのだろう。
「蔵王? おまえ、行かなかったのか」
驚いた口調で、奥羽本線が言葉をかけてきた。
「…、はい」
自分は返事に乗り気でなかったと思う。他者がくることで、集まっていた鳥たちが一瞬にして逃げ立ってしまったからだ。また、奥羽はそのように失礼な態度を気にする上司ではなかった。
「なぜだ、せっかくの大盤振る舞いだぞ」
 そう、あの時は、ダイヤの大改正におおわらわだった。慰労として、鉄道たちにまとまった金一封が出たのだった。
「奥羽さんこそ、行かないんですか」
「おれが行ったら、みんなが羽を伸ばせないだろ」
月明かりにうかぶすがたは堂々として、さりげない。
「ありがたい話ですけど、温泉に宴会でしょう。おれはええです」
「きれいなオネエチャンもいるはずだぞ」
本線はわざと下品な言い方をした。ふだんの彼とのギャップに戸惑ったのを覚えている。その工夫が、一般的には男どうしの距離をちぢめるのに有効だということを自分は知らなかった。
「それは、別にええです」
「なんだ、興味ないか。おまえ、もてるだろう」
「はい。でも、いりません」
「おいおい、鳥のほうが好いとかいう、おかしな趣味じゃないだろうな」
冗談にまぎらせて、心配してくれる。
「鳥も女性もいっしょです。きれいにさえずって寄ってくる。だども、もとから、おれたちとは違うものです」
それは本当だ。自分にとって、異質なものだ。
「でも、鳥は好きだよな?」
「好きだず。でもおれは鳥でねえ。つがいたいとは思わね」
敬語が崩れてきた。
「おなごの鉄道ば見たことねえし」
ふうん。おもしろそうに奥羽が視線をするどくする。
「そうか。妙に愛想がないと思ってたが、おまえはそういうやつだったか」
たしか、自分は頭をかしげたはずだ。言葉の意味はわかるが、なにを言われているのか理解できなかった。
 そのとき、宿舎のおもてに車がとまる音がした。夜にもかかわらず、奥羽が大きな声をあげる。
「おおい、こっちだ」
ふりむくと、小気味いい足音とともに二人の鉄道がやってくる。月明かりのせいか、髪色が淡い。
「こっちも夜は冷えるなあ」
「来てやったぞ。もちろん、いい酒があるんだよな」
奥羽に対して軽口をたたく二人に見覚えがあったので、とっさに姿勢を正した。鉄道は、いつの時代も縦社会だ。
「あ、これ、うちの『蔵王』」
奥羽の言葉に、きちんと頭をさげる。
「ああ、急行だっけ。新入りのくせに、育ってるなあ」
「蔵王か。どうだ、仕事には慣れたか」
「ああ、こいつらは」
奥羽の紹介をさえぎって挨拶をする。
「存じてます。羽越本線さんと、信越本線さんですね。蔵王です。よろしくご指導お願いします」
 ごく無難に礼儀をはたしたと思った。だが両本線は自分をまじまじと見て、それから奥羽にもの問いたげな目をむけた。
「うん、こういうやつ。おもしろいだろ」
奥羽が苦笑する。
「ほんとに二年目かよ、雰囲気あるなあ」
信越本線がためいきをつき、
「名は体をあらわすってやつかな。いい御名をもらったな」
羽越本線は目を細めた。
「御名、なあ。あのお山の本性なら、執念深いはずだがなあ」
自分の本線が笑った。
 黙っていると、本線たちが髪を揺らした。そろってうなずきあった髪の先から、さらさらと月の光がこぼれた。
 息を呑んだ。
 木々の枝、鳥のはばたき、風のそよぎにつながるものだった。
 このひとたちが特別なのか、自分が無知なだけなのか。鉄道に自然の光が流れるのを、はじめて見た。
 自分はまだ、なにも知らなかった。恐れることも、恥じることも、他者に関心を向けることもなかった。
 本線は正しかった。
 おくびょうで泥くさく執念深い自分は遥か深くにあり、いつかひとりの人に見出される日を、とろとろと眠って待っていた。
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削谷 朔(さくたに さく)
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山形新幹線×東海道新幹線が好きです。
でも基本的に雑食、無節操ですのでご注意ください。
鉄分のない駄文ですが、よろしければ覗いていってください。
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