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青春さまの青春鉄道、紙端国体劇場作品の二次SSブログです。 同人、腐、女性向けなどに理解のない方、義務教育を終了していない方は、ご遠慮ください。 実在の個人、団体、鉄道等とは一切関係ございません。

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両思いになるまえに、こんな日も。
とくべつ幸せではない形海です。

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恋人未満の日

 上越新幹線はご機嫌だった。おおむね不機嫌を標準装備にしているから、たまに本当に楽しめることがあると、しばらくのあいだは上機嫌でいられるのだ。1992年6月現在の楽しみは、同僚たちの心もようである。
 このひと月は、折にふれて山形新幹線に
「東海道はさ、なまじ出来すぎてるから、みんな遠巻きにしてるけど」
すごく人気があるんだよね、と教えたり、
「強がってるけど、さみしがりで情にもろいから。真面目に想われたら、ねえ」
早い者勝ちだよ、と匂わせたりしてきた。
 新入りのミニ新幹線は、山陽新幹線と話す東海道新幹線を離れて見ていたり、だれかが東海道と親しく話していると作業中のペンの響きに険が増したりする。表情こそ豊かではないが、上越の目には東海道を気にしているのが明白で、また隠し立てするつもりもないようであった。
 山陽には「あまり遊んでやるなよ」と軽くたしなめられたが、かまわない。だって、東海道もまんざらではないのだ。山形が来てからこっち、明るくなって鮮やかな表情を見せることが増えた。そんな同僚たちを観察し、こっそりカメラに収めるのが理屈ぬきに楽しい。
 数日前など
「バレンタインとかクリスマスとか、いかにもってイベントはともかく、地味でさりげない行事は好きそうだね。たとえば、今月の恋人の日みたいに」
と、わざとらしいかと思いながらも水を向けたら、就業後に「恋人の日」のなんたるかを調べていた。ふてぶてしいほど落ち着いた新人のそんな姿が可笑しくて、ほほえましい。
「いきなり写真を入れて渡すと引かれるかもしれないから、最初はフレームだけのほうがいいよ。中の写真はこれからの楽しみにしてさ」
背後から声をかけるのにも反応はない。だが高速鉄道になって二ヶ月ちょっとの山形にとって情報は貴重なのだろう、しっかり聴いているのがわかる。さらに、それからは昼休みに雑貨屋や百貨店に寄っているとなれば、上越にはこたえられない。
 6月12日の朝、ブリーフケースのほかに百貨店の小さな紙袋をさげた山形を見て、上越はにんまり笑った。そして、用意してきた封筒を取り出した。
 朝のミーティングの準備を終え、業界紙をめくる東海道に声をかける。
「東海道、ちょっと」
だれもいない給湯室に呼び出して持参の茶封筒を手わたすと、東海道は怪訝な顔になる。
「これ、きみに」
なんだ、と中身をあらためた東海道は、真顔になって黙り込んだ。
「僕の趣味が写真なの、知ってるでしょ。いいのが撮れたから、あげるよ」
ここ最近の、鮮やかに笑った東海道の写真。上越の改心の一枚である。
「自分のアルバムに入れてもいいし、大事な人にあげてもいいし。どうぞ」
くく、と上越は喉の奥で笑う。楽しい。
 上越の予想では、東海道は顔を真っ赤にするか、照れてろくな返答もできないかしながら、しかたなさを装って受け取るはずだった。山形がくれたフォトフレームに飾るなり、勇気があれば写真そのものを山形に渡すなりするかもしれないと期待していた。そうして距離を縮めていく二人を観察しようと考えていた。
 しかし、東海道は大声を出した。
「ことわる! 勝手に写真を撮るなど言語道断、おまえの持つ私の写真はすべて処分しろ、いいな、今日中にだ!」
しまったと上越がたじろぐ。東海道の瞳が、きらきらと輝くほどに怒っている。なにごとかと同僚たちが寄ってくる。
「そもそも私は写真が嫌いだ、アルバムひとつ持っていない。いいか、二度と私を撮るな、わかったな」
言い切ると、東海道は靴音も荒く自席に戻ってしまった。
 給湯室をのぞきこむ東北新幹線のむこうに、東海道を寂しげに見やる山形が見える。山陽は、怒ったような呆れたような表情だ。まずったなあと上越は頭を掻いた。

 紙袋ごとくずかごに捨てられた百貨店の包みを、上越は拾いあげてほこりをはらう。東海道が厳しい顔のまま仕事に出るのを見送ってから、山形は黙ってこれを捨てたのだ。
「それ、どうするんだ」
かけられた声に驚いてふりむく。山陽がドアのところに立っていた。
「みんな行ったと思ってたよ。わすれもの?」
「ちょっとな。それ、山形が捨てたやつだろ」
山陽は穏やかだが、見逃してくれそうにない。しかたない、自業自得だとため息をつく。上越もへこんでいたので。
「東海道へのプレゼントだよ、フォトフレーム」
「フォトフレーム。よりによって。…あれ? 東海道の記念日じゃないよな、今日」
「今日はね、『恋人の日』なんだ。フォトフレームに写真を入れて好きな人に贈る日なんだよ」
「こいびと…ってあいつら、付き合ってんの!?」
「まだ。でも山陽もわかるだろ。ふたりとも意識してんの」
「うん、まあ」
「で、知ってただろ。ぼくがそれで遊んでたの」
「うん」
「だからさ、山形にけしかけたんだよ。恋人の日にかこつけて。クリスマスやバレンタインまで待ってらんないよ、じれったい」
「馬に蹴られるぞ」
「蹴られたよ、思いっきり。東海道があんなに怒るとは」
「知らなかったんだな」
「隠し撮りはまあ、いい顔しないと思ったけど」
写真はいい出来だったのにな、とつぶやく。
「あいつの写真嫌いはさ、むかしからなんだけど。とっときたいような思い出が少ないからかなって思うんだよね。でも」
山陽がこたえる。
「最近すごくいい顔するじゃん?」
その言葉に、上越の目に光がともった。山陽がにやりと笑う。
「で、どうするんだ、そのフォトフレーム」
「僕がもらっておく。いつか、嫌いなんて言えないほどいい写真を撮って、これが君だよって東海道に飾らせてやる。フレームは山形が選んだんだって言って」
「せかすなよ。あいつらが選ぶことだ」
「はあい。僕も、ちょっと懲りたよ」
「ちょっとか」
山陽が苦笑する。上越はすでに、いつもの人をくった笑みだった。
 話題のふたりが両思いになるまでは、まだ少し。

 その翌年には、東海道の部屋に写真が飾られるようになった。それからも東海道はアルバムを持たなかったが、山形が東海道の写真もふくめてアルバムを作ることに文句を言うことはなかった。
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削谷 朔(さくたに さく)
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山形新幹線×東海道新幹線が好きです。
でも基本的に雑食、無節操ですのでご注意ください。
鉄分のない駄文ですが、よろしければ覗いていってください。
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