青春さまの青春鉄道、紙端国体劇場作品の二次SSブログです。
同人、腐、女性向けなどに理解のない方、義務教育を終了していない方は、ご遠慮ください。
実在の個人、団体、鉄道等とは一切関係ございません。
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レタス・レタス
「越生、サラダつくるの手伝って」
「まかせとけ、東上」
レッタッスー、レタス、レッタッスー、レタス、とサラダの歌をうたいながら東武越生線が台所へやってきた。
「よう越生、料理するなんて、えらいじゃねえか」
「武蔵野っ、またJRを追い出されたのか。遅延か運休か、サボってたのがばれたのかっ」
「いやあ、今日はふつうに休みなんだなあ。オレ最近は頑張ってんだぜぇ」
「休みでも逃げ出してくるなんて、JRってとこはよっぽど居心地が悪いんだな、普段の行いの結果かっ」
「越生えぇ…」
たしかに宿舎よりここのほうが居心地はいいが、あまりの言われように武蔵野線が崩れる。
「いいから越生、手を動かして。日が暮れちゃうよ」
うん、と越生は東武東上線には素直にうなずいて、しかし次の瞬間、またかん高い声を張りあげた。
「東上、白菜しかないぜ! レタスは!?」
「あれは外国の食べもんだ。日本人は古来からこっちが正しいんだよ」
「そうか!」
「先のやわらかいところをちぎってな。ぜいたくに、コーンとツナを載せような」
やったあと喜んで白菜をちぎる越生を横目に、武蔵野が言う。
「コーンとツナはいいのかよ、横文字だぞ」
「もろこしもマグロもむかしからあったよ。それにほら、レタスは高いけど、白菜はこの時期、畑のおすそ分けでもらえるから」
「ああ、なるほど」
武蔵野は、次に来るときはレタスを土産にしようと考えながら素朴な疑問を口にした。
「でもさあ、おまえら、そんなに節約してどうすんの? レタスやシャンプー買えるぐらいの稼ぎは充分あるだろうよ」
「ばかJR、贅沢は敵だ」
「ぜいたくはてきだ!!」
淡々と返す東上に、威勢よく越生が倣う。
「贅沢は敵だって東上おめえ、いつの話だよ。日本は高度成長期も失われた十年も通りすぎて、もうずうっと豊かな国なんだぜ?」
すると東上がコンロの火を止めて、
「豊か? 日本が?」
はじめてまともに武蔵野を見た。
「おれが生まれたころは、貧しい人がたくさんいた。それから戦争に勝ったり負けたり、地震や噴火や伝染病や飢えや身売りや公害や、とにかくいろいろあったんだぞ」
「そりゃそうかも知れねえけど」
昔のことだろう、と武蔵野は思う。だが、東上は言う。
「この何十年かが良さそうに見えたって、このさき百年二百年、なにがあるか分かったもんじゃねえ。楽な暮らしに慣れちゃ、いざって時に生き残れないんだよ。どっかの独占企業や公務員とは違うんだから」
戦前戦後は、東上にとってどれだけ厳しかったんだ、と武蔵野はおどろく。極端な、頑固なやつだと呆れた。
「でもさあ、たとえばハイパーインフレとか恐慌とか貨幣価値の暴落とか、外国と喧嘩して国家総動員法っぽくなったり、輸入できなくて物も薬も食べものもなくなったりしたらさあ、今やってる節約なんて、焼け石に水じゃん?」
「焼け石に水でも、ないよりはましだ。おれたちが走らないと困る人がたくさんいるんだから」
言い切る東上のまなざしを武蔵野はきれいだと思う。まっすぐで、強いと思う。それから秩父鉄道のことを思い出して、なにごとにも尋常じゃなく向かいつづけるやつなんだなと、尊敬を感じつつ危惧した。はあーぁと気の抜けた息をついて、
「そっか、わかったよ。でもまあ、たまには贅沢もして生活を楽しもうぜ。その時はその時で、なんとかなるよ」
生真面目な男に笑いかけてやる。
すると東上はきょとんとして
「楽しんでるよ。毎日きもちよく走ってるし、楽しく暮らしてるよ?」
心底ふしぎそうに答えた。
ああそうか、と武蔵野は可笑しくなる。この男は、自分とはぜんぜん違うんだ。なんだ、これが素で、自然体なんだと。ひゃっひゃっひゃと変な笑い方をしていると、
「まあ、いざとなってJRを本格的に追い出されたら、うちに居候させてやるよ」
東上が笑った。
「それもいいな」
この家、なんかあったかいんだよなあと武蔵野がしみじみした気分でいると
「その時は、この越生サマがきさまを新入りとして教育してやるから、安心しろ」
と、えらそうな子どもが胸を張る。
もうすぐ冬。働きものの台所に、いつのまにか食事の用意ができていた。
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プロフィール
HN:
削谷 朔(さくたに さく)
性別:
非公開
自己紹介:
山形新幹線×東海道新幹線が好きです。
でも基本的に雑食、無節操ですのでご注意ください。
鉄分のない駄文ですが、よろしければ覗いていってください。
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