忍者ブログ
青春さまの青春鉄道、紙端国体劇場作品の二次SSブログです。 同人、腐、女性向けなどに理解のない方、義務教育を終了していない方は、ご遠慮ください。 実在の個人、団体、鉄道等とは一切関係ございません。

* admin *  * write *  * res *
[77]  [76]  [75]  [74]  [73]  [72]  [70]  [69]  [68]  [65]  [61
<<09 * 10/1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31  *  11>>
-->
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

web拍手 by FC2 -->
開業した年の長野新幹線の断片です。
形海前提で、上越新幹線がでてきます。

+ + + + + + + + + +

「おかえり」

 ある日の夜、宿舎の階段で長野新幹線は子どもらしい細い首をかしげた。おいかけた先輩の声が「ただいま」と、二階の左手から聞こえたから。
 いそいで階上へかけのぼると、東の角部屋のドアが閉まるところだった。
 甘からい煮物のにおいと、訛った返答の切れ端を、かすかに廊下にながしたまま。
 長野はびっくりして立ちつくした。混乱していると自分でわかった。
 しかし、とっさに姿勢をただし、深呼吸をふたつ試す。
(ええと、ぼくは、さっきまで一階のリビングで夕ご飯を食べていた)
できるだけ落ち着いて、時系列で現状把握につとめる。
(そうしたら、玄関に東海道せんぱいが帰っていらした気配がしたから、おかえりなさいを言おうと思って、あわててご飯をのみこんで。のどにつかえたから飲みかけのお茶を飲んで、秋田せんぱいに笑われて、東北せんぱいがだいじょうぶかって聞いてくださって)
小さな混乱も事故のもとだと教わってきた長野は、幼いながら、自分がなにに驚いたのかを捉えようとしているのだ。
(おぎょうぎ悪いってわかってたけど、玄関に出たら、もう東海道せんぱいはいらっしゃらなくて。まっすぐ二階に行ったんだなって、いそいで階段をあがったら)
東端のドアを見る。
(そうか。だから、ぼくはふしぎに思ったんだ)
そこは山形新幹線の部屋だ。
(ここから『ただいま』と『おかえりなす』ってきこえた。東海道せんぱいの声は、なんだか)
 そこまで考えたとき
「なーがの、どうしたの」
背後から声をかけられて、長野はひゃっと飛び上がった。
「こら、危ないよ」
階段の上がりくちだったから足もとが揺れて、声の主に両脇をおさえられた。へいきです、落ちたりしませんと言う間もなく、ひょいと持ち上げられて廊下の中ほどにすとんとおろされる。助けてくれたのは同僚で先輩の上越新幹線だ。小さな長野にあわせて廊下に片ひざをついてくれる。微かな酒の香が、なぜか不快ではない。
 廊下は、いまは静か。誰の部屋も閉じられて。
(さっき聞こえた東海道せんぱいの声は、なんだか疲れた――ぐったりとした感じで)
「遅いから様子見にきたんだけど。食べかけのご飯が冷めちゃうよ」
長野にかけられる声がやさしい。じわりと、涙がにじんだ。泣くというほどではない、さみしさと安堵の入りまじった気持ちのかけら。
「東海道に会えなかった?」
上越が困った顔で問う。
 長野はだまって首をふる。会えなかったけど、そうじゃない。それをさみしがってるわけではないと伝えたかったが、どう表現すればいいのか、まだ長野は知らないのだ。はじめての感情をけんめいに整理する。
(おかえりなさいを言えなかったことを、せんぱいはわかってる。でも、ちがうんです。言えなくてさみしいとかじゃなくて、ぼくは、びっくりしたんです。いつもぴんとしてらっしゃる東海道せんぱいが、あんなに疲れた声を出すなんて)
「あの、上越せんぱい」
なんだい、と上越がまなざしでこたえる。
「せんぱいは、お疲れになること、ありますか」
大真面目な長野を、上越はしばし見つめて、それから軽々と抱き上げた。
「あるよ。だれだって疲れることはあるよ。きっと長野にもあるよ」
「そうですよね。だれだって疲れるんですよね」
「そうだよ。がんばれば疲れるし、なまけても疲れるし。きみも開業して走り出したんだから、ちゃんと食べて早く寝ないとね」
まるでたいしたことじゃないように言って上越は階下へ向かう。その首にぎゅっと抱きつきながら、長野はやっとわかったつもりになった。
(ぼくは今まで、せんぱいがたのお疲れのところに、いっこも気づかなかったんだ。それにきっと大人のひとたちは、ぼくの前ではそれを見せないようにしてくださってたんだ。たぶん)
キッと、あどけない頬がこわばった。歯をくいしばったのだ。
(気づかないことも、気づかわれることも…………くやしい)
「おろしてください」
もうリビングが目の前だった。抱っこされてやすやすと連れてこられた。上越が意外そうに長野を見たのも無理はない。長野は小さく、これまでそれを嫌がったことはなかったから。
 しかし、長野は言った。もういちど、はっきりと。
「せんぱい、おろしてください」
いま長野は、だれかを援けるひとでありたいと思っていた。疲れただれかに「おかえり」と言ってあげたいと思うようになっていた。まだ自分を走らせるだけで精一杯の未熟な新人ではあるけれど。
 上越はそっと長野を床におろしてくれた。
「ありがとうございました。ちゃんと食べて、寝ます」
「ん。そうしなね」
やさしい目をしたまま、上越がこたえる。長野はつよく頷きかえした。リビングでは同僚たちが馬鹿話でもしているのか、どっと笑い声がきこえた。
PR
web拍手 by FC2
この記事にコメントする
お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字

管理人のみ閲覧可能にする    
プロフィール
HN:
削谷 朔(さくたに さく)
性別:
非公開
自己紹介:
山形新幹線×東海道新幹線が好きです。
でも基本的に雑食、無節操ですのでご注意ください。
鉄分のない駄文ですが、よろしければ覗いていってください。
最新記事
P R
powered by NINJA TOOLS // appeal: 忍者ブログ / [PR]

template by ゆきぱんだ  //  Copyright: さくさく All Rights Reserved