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青春さまの青春鉄道、紙端国体劇場作品の二次SSブログです。 同人、腐、女性向けなどに理解のない方、義務教育を終了していない方は、ご遠慮ください。 実在の個人、団体、鉄道等とは一切関係ございません。

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一時間半、遅刻しました。二時間以内だから東海的にはセーフ、だといいな。
形海だけど東海道兄弟ばっかり。山形上官おめでとうなのに東海道上官ばかり幸せ。
過去の捏造ありのもうしわけなさですが、よろしければ。

1992年7月1日、山形新幹線開業の日の深夜のお話です。

+ + + + + + + + + +

合縁奇縁

 坂道でこそないけれど、迷子になりそうな、つづらに入り組んだ駅の奥。真夜中とて誰もいない通路の壁に、東海道新幹線はもたれて腰をおろしていた。とっくに仕事は終わって、何もしない。目が慣れたから、灯りがなくても困らない。そもそも何もしないから、見えなくたって構わない。
 ただここに居たいだけだ。
 ワーカホリックだから携帯電話は常に持っている。夕方からこっち、一度も鳴らずに。一晩くらい宿舎に戻らなくても、だれも気にしない。むしろ自分にも同僚たちにも緊急事態が起きていない、いいしるしだ。
 東海道は、シャツの釦をふたつ外して制服の上着をひざにかけた。朝までこうしていようと決めたので。
 古い建物のにおいがする。むかしも古かったが、さらに年季が入った。お客に見せないところだから、ありていに言えばぼろぼろだ。ここをふくめ、老朽化した設備の改修案が何度も検討されたが、東海道は詳細な意見書つきで優先順位を下げて下げて、ずっと後回しにさせてきた。
 息を吐く。はじめて山形新幹線について知らされた日を思い出す。新在直通の新しい試みについて聞いてはいたが、しょせん他社のこと、無関係だと信じていた。まさか特急ごときを高速鉄道の範疇に入れるよう各社連絡会議で要請されるとは思いもよらなかった。正直なところ、新幹線そのものを侮辱されたようで、会議中は体が震えるのを抑えるのに精一杯だった記憶がある。その後、自分と弟しか残っていない会議室で怒りを爆発させたのは当然のなりゆきだった。
「ミニチュアだかミニマムだか知らんが、私は認めんぞ、東海道」
「正式に決まったんだ、兄さん」
「ごまかすな。正式には在来の特急だろう」
「それはそうだけど、営業上の愛称として新幹線って呼ぶことにJR東日本が決めたんだよ」
「勝手に呼べばいい。新幹線のほうが聞こえもいいし特急券も土産物も高く設定できるだろう。そういった営業努力は嫌いではない。他社のことに口は挟まん」
なにもプライドだけで反対しているわけではなかった。
「だが私は、その特急と同じ制服は着ないし上官室の使用も許さん。速度、輸送力、安全性、なにひとつわれわれ高速鉄道と同列ではありえない。」
 きっぱり断じた東海道に、弟はあごを引いて目を合わせた。
「でも兄さん」
それは、たいがいのことは賛同してくれる弟が、自分の意志を示すときのしぐさだ。
「ぼくは歓迎してるんだ。初のミニ新幹線を上官として敬したいと考えてる」
おまえも高速鉄道を軽視するのか、と一瞬かっとなり、弟にかぎってそれはないと内心で打ち消す。では、どういう理由があるのか。山形を走る特急は、東海道本線が尊敬したいというほどの器なのかと思う。
「なんだ、もう生まれているのか。それとも昔馴染みの特急の着任が決まったか」
「生まれてないし、…生まれないような気がする。じき候補者がピックアップされるだろうけど、それは東の仕事。ぼくはノータッチだよ」
「そうか」
東海道は弟の言葉を疑わない。言葉の意味を考える。
「私が新幹線になるときに、名実ともに鉄道を束ねよと言ったな」
「うん」
「『戦争にまけて、経済が復興して、この国の思想や常識が転回して』」
「うん」
「『わたしたち鉄道が人間社会で主体性を保っていくために、新たに強固な団結、秩序の再編が必要です。この機会を待っていました。新幹線にはそのトップに立っていただきたい』と」
「うん。一言一句そのとおりだよ、兄さん」
「あのときは、まだ本線とただの廃止特急で、日本一偉い本線が私などに敬語で話すから、おどろいて黙って聴いてしまった」
「そうだったの? 冷静に聞いてくれてると思ってた。そうだ、はととして走ってたときの印象とちがうって感じたんだ、あのとき」
「ちがう?」
「こんなに大人びた、腰のすわったひとじゃなかった。廃止になって影がうすれる鉄道が多いなか、こんなに存在感を増すなんて、どれだけ苦しんだんだろうって、思った。これなら、新幹線を任せられると、思った」
「初耳だ」
「うん、初めて言った。生意気言ってごめんね、兄さん」
歴史ある東海道本線は、しかし愛すべき弟だ。
「かまわんさ」
東海道は鷹揚にわらった。怒りはいつの間にか、なりをひそめていた。うつむいて、弟は東海道の袖をぎゅっとにぎる。
「ぼくは、明治からのならいで国の言うなりだった本線じゃなくて、国鉄や官僚や利権屋と対等にわたりあえる役職がほしかった。鉄道の仲間を守るのに必要だと、戦中からずっと痛感してた」
「だから、ただの在来の複々線をぴかぴかの鍍金の椅子にすえて、絶対服従の対象にまつりあげたんだな。上官制度もBTの呼称もおまえの発明品だ」
「兄さんは完璧だよ」
「だが、足りないんだな」
弟は、ぱっと顔をあげて
「足りないなんて、そういうわけじゃない。兄さんはもちろん、山陽さん、東北さん、上越さん、みなさん立派な上官だよ」
懸命に言う。
「だが、おまえはもっと欲しいんだな。上官という手持ちの札を」
東海道の声は淡々として、皮肉はない。
「…………うん。そうだよ兄さん。数は力で、力は武器だもの。ぼくら鉄道はいつだって生殺与奪の権を人間に握られているんだもの」
弟の言は正しい。そして恐ろしい。自分は、すくなくとも廃止の憂き目にあうまでは、その事実を実感せずにすごしていた。国内の多くの鉄道も同じだろう。存在の危うさに恐怖せず、走ることだけに注力できるのは、弟をはじめとする一部のものたちが人間たちとの折衝をひきうけてきたからなのだ。それは、いまやBTとなった自分の義務となり、兄として協力を惜しまぬところでもある。
 目を逸らしてしまった弟が、いじらしい。
「ミニ新幹線とやらは、高架を走らないのだろう?」
「あ、うん。在来線の区間はそうみたい。踏み切りもあるって」
「それでは事故が多いだろう。新幹線として扱うことで高速鉄道全体の信用を落としかねないぞ」
「そこは、愛称はともかく在来線の特急だからって説明するよ」
「実がともなわないのに上官となると、いろいろ辛いだろう。上官としては軽視されるだろうし、存在そのものがダブルスタンダードでは不安定だ。在来の最上位につけるか、准上官扱いにしたほうが」
「そのほうが楽だろうね、まわりも本人も。でも、そんなことで潰れるようなのも、軽んじられるようなのも要らない。押し出しがよくて下から慕われ、対外的にもきっちり上官職をこなせる鉄道を選ぶよ」
本線の本音が出た。ミニ新幹線の候補者選びにはノータッチだと述べていたのと矛盾する言いぐさだ。が、
「……わかった。そのミニミニ新幹線とかいう特急に、上官としての待遇を約束しよう」
東海道は話を流した。兄弟になってからずっと、弟の言葉を疑わないと決めているので。
「兄さん、ほんと!?」
「弟の、たまの頼みだからな。そのかわり、せめて人物は上官にふさわしいものを選べよ」
「うん! ありがとう!!」
 回想は鮮明で、暗い通路に、弟の歓声が聞こえるような気がした。
(あのときは、東海道の喜んだ顔をみられたから、まあいいか、くらいの気持ちだったのだな)
運命とか奇跡とか、そんなものは信じていないつもりだが、不思議なものだとは思われる。
(廃止になってから私の腰がすわったのは、弟が言ったようにさんざん苦しんだからではない。北の訛りの見知らぬ鉄道が、私のことを「見ていた」と繰り返してくれたからだ。彼がいなければ、今の私は無かった。そして)
上着が皺になるのもかまわず、自分のひざを抱きしめる。いま、本邦初のミニ新幹線はかけがえのない存在になっている。同僚として、気の置けない仲間として、そしてひそかな恩人として。だれにも、本人にさえ内緒だが。
(東海道の説得がなければ、私は彼を在来の大部屋に送り込んでいただろう。そして敬語と緊張した礼儀正しさで接せられたことだろう)
 その可能性に、ぞっとする。
 東海道は意識して深く呼吸し、仮想の恐怖をやりすごす。ずっとこうして対処してきた。音のない闇は、深更の時は、総毛だった肌がふたたび滑らかになるまで待っていてくれる。やがて穏やかに、かの人を想うこころもちがおとずれた。
(今日は疲れただろうな。彼にとって特別な上に特別な日だ。もう眠ったか、まだ宴会のさいちゅうか)
とっくに零時をまわったが、寝付くまでは今日だと几帳面に考える。
 こんな日がくると、半年前まで知らなかった。
 自分は朝のミーティング以来、顔をあわせていないが。あえて運行情報も気にしないようにしてきたが。やはり特別な祝いの日だ。その日をこの場所ですごす、さいわい。
 とりとめもなく思考して、目をつむる。気ままな闇にうとうとする。

ブゥン。ブゥン。ブゥン。

ポケットの振動に、たちまち覚醒して携帯をとった。
「なにがあった」
発信者を確かめもせず緊急事態と判断して問う。
 だが、返事はない。かすかに息をのむ音と、沈黙。
(声が出せないのか…恐慌をきたしているのか?)
事態の深刻さをはかりつつ、つとめて落ちついた声をつくる。
「東海道新幹線だ。だいじょうぶ、すぐに応援を出す。ひとつずつ答えろ。まず、きみの名前は」
「…………あのう…」
こんどは東海道が息をのむ番だった。
「こっだな時間にわるいとは思ったんだげっとも」
申し訳なさのにじむ、しかしマイペースな声。
「とうかいろう?」
(ろれつがおかしい。もしかして)
息苦しいほど驚いている心臓をなだめて問いかける。
「山形、酔っているのか」
「んだ、したたか飲んだず。ええ酒だっけのなず」
「祝宴はわかるが、明日も行事が待っているだろう」
「平気だ、これしきの酒なら朝にはぬけとるよ」
「まあ、トラブルではないのだな。おどかすな。開業初日の夜更けに、なにごとかと思ったぞ」
「すまねえ、非常識だずなあ」
「かまわんぞ、起きていたし」
「んだが、ほんてだがや? やっとお開きで部屋にかえってきたら、ああ、一日が済んだって気になってるんだずんだあ」
お開きで、とは山形のための祝宴が終わったということだろう。
「今日はいろいろあったけども、なんとか走り出せたなあと。それでなあ、おめさに礼のひとつも言ってねがったと思って」
「礼、なんて」
「東海道新幹線。ご指導、ご鞭撻、ありがとさまだず。おかげさまで、本日、山形新幹線ば開業することができたんだず」
(なにも…なにもしていない。私こそ、おまえのおかげで走っていられるというのに)
「真夜中になにかだてるんだが叱られてもしょないったが、どうしても言いたくて、おめさは仕事持ち帰ってやってることも多い時間だしと思っで、ちょどしってらんねぐなって」
酔っぱらいのつむぎだす遠い国の言葉を、半分もわからないまま目をとじて大切に聴く。
 ここは東京駅構内の辺境、東海道の隠れ処。数十年もむかし、見知らぬ鉄道が「おれが見てたで」と繰り返してくれた場所。
(ここの改修を、何度も却下してきたが)
 いまここで、変わらぬ訛りを聴いている。これからも東海道を見ていてくれる。
(いずれ改修はまぬがれないだろう。この場所がなくなる可能性もある。けれど、次には許可できるかもしれない)
 あの日は幻でなく、夢のような今日が現実で、そして。この声をこれからも聴いていかれるのだから。
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プロフィール
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削谷 朔(さくたに さく)
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山形新幹線×東海道新幹線が好きです。
でも基本的に雑食、無節操ですのでご注意ください。
鉄分のない駄文ですが、よろしければ覗いていってください。
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