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青春さまの青春鉄道、紙端国体劇場作品の二次SSブログです。 同人、腐、女性向けなどに理解のない方、義務教育を終了していない方は、ご遠慮ください。 実在の個人、団体、鉄道等とは一切関係ございません。

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 「君を恋う 10」の続きです。
 終わりました。長いあいだお読みくださいまして、ありがとうございました。

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君を恋う 11

 結局、東海道新幹線はパジャマを借りてベッドで休むことにした。
「さんざん、みっともないところを見せたついでに訊くけんども」
着がえるとき、山形新幹線は傷薬を塗りこめながら恋人にたずねた。
「おめさが四月一日に、新聞を読んで難しい顔してたの、憶えてるべか」
「シガツイッピ?」
「さすがに忘れちまったがなあ。ずっと、ひっかかってたんだが」
「四月一日の新聞か。ということは、年度末の記事だな」
なにかあったかな、とBTは高性能のメモリーボックスをさがす。パジャマのボタンを留める手がとまる。
「……ああ、たぶん満鉄会だな」
「満鉄…戦前の?」
憶えてるのかと山形は驚きをかくさず、旧い単語を復唱する。
「うむ。その南満州鉄道のOBや家族で組織する団体が満鉄会だ。今年の三月いっぱいで解散した、その記事だろう」
「解散だずか」
「会員の高齢化でな。人は亡くなっていくからな」
 東海道のまなざしが、遠くを見はるかすものになる。
「わたしは彼処で生まれた。生活は女中たちの、教育は軍人や調査部の世話になった」
「おめさのふるさとか」
「調査部の人材は多彩でな、わが国初のシンクタンクといわれたんだぞ」
遠いなあ、という詠嘆をおもてに出すのを山形は控える。戦後生まれの身には、前時代の組織がこの間まで機能していたことが不思議だ。しかし、東海道にとっては今と地続きの、人生の一部なのだろう。
「おめさも山陽も、九州もジュニアたちも、そのころを知ってるんだなあ」
東海道は視線をはずすと、ベッドにもぐりこみながら呟いた。
「知らないなら、そのほうがいい」
(やっぱり昔話は嫌いかあ、東海道。おれは戦争ば知らねえからなあ)
 ため息をついて、山形は立ち上がった。
「ありがとな、すっきりしたべ。じゃあ、チェックアウトしに行ってくるで」
ぴ、とポロシャツのすそが引かれる。ふりむくと東海道が、とっさにひきとめてしまった自分の手を、びっくりしたように見つめていた。
(さみしい? 心細いんだずか。そんだけ具合が悪いんだなあ)
ひたいをなでてやると、山形のすそから手がはなれる。
「…こんなふうに」
東海道がほろっとこぼす。
「おまえに頼ってばかりだと思っていた」
「おれも少しは、そう思ってたず。ちっとも、そうでねかったなあ」
山形は苦笑する。もう、眉間にしわはない。
「音をかけていってくれないか」
「ええよ。なにがいい」
「いつもの。歌のないほう」
「『A列車』?」
「うん」
やがて陽気だが、落ち着いたナンバーが流れて、東海道が目をとじた。
「行ってこい」
「うん。はやく帰るでな」
「ゆっくりでいい。まだ今日はたっぷりある」
「んだな」
 そうだ、きょうは恋人がどこへも行かないのだと安心して、山形は鍵をかけた。
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削谷 朔(さくたに さく)
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山形新幹線×東海道新幹線が好きです。
でも基本的に雑食、無節操ですのでご注意ください。
鉄分のない駄文ですが、よろしければ覗いていってください。
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