青春さまの青春鉄道、紙端国体劇場作品の二次SSブログです。
同人、腐、女性向けなどに理解のない方、義務教育を終了していない方は、ご遠慮ください。
実在の個人、団体、鉄道等とは一切関係ございません。
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君を恋う 10
今日の予定はと東海道新幹線がたずねた。とくにねえよ、おめさは? と返されたので、自分も白紙だ、今日中に東京に戻れればいいと答える。
「そんじゃあ、おれも帰るべ」
山形新幹線の提案に、新庄泊まりの予定ではなかったかといぶかしむ。
「仕事は算段するで、予定は変更だず。せっかくおめさが来てくれたんだ、いっしょに過ごして、いっしょに帰ろう」
東海道は素直に笑うと、では、すまないがと切りだした。
「十時までにホテルに行って、自分の代わりにチェックアウトをしてきてほしいのだ」
めずらしい頼みごとだった。よほど身体的につらいのだろうと山形は眉をひそめる。同時に、構えも遠慮もないのが嬉しい。
「ええよ。ついでに何か買ってくるで、ここでゆっくりしてらっせ。食べたいもんはあるか」
「いまは欲しくない。お茶かスポーツドリンクがあればもらおう」
「お茶でよければ、淹れてから出かけるべ」
台所へ立とうとベッドをおりた山形は、あわせて立ち上がった東海道に、布団に入ってたほうがいいと促した。
「カードキーと現金が上着の中だ。それに、着がえてしまったしな」
気丈な言葉とはうらはらに、力ない歩きかたの恋人を、山形はささえる。山形のシャツが大きくて東海道の指先が隠れそうなのに気づいて、思わず手をだした。
「袖、めくってやるで貸してみい」
東海道は、ばっと手をもぎ離して飛びのいた。うってかわって必死な目で、自らの手首をつかんでいる。
山形はあっけにとられた。のりのきいたシャツの白さに、休日なのにきっちり着こんでいる事実をあらためて意識して、次の瞬間に理解した。真剣に東海道を見すえると、有無をいわせない動きで袖をあげさせ、胸元をひらいた。
赤い傷、青黒いあざが、いちめんに散らばっていた。
山形は言葉もなく、泣きそうな目をして動きを止めてしまった。
その手をひき、ちゃぶ台のまえに座らせ、お茶を淹れたのは東海道だった。
「たいしたことはない。体質でな、むかしから鬱血しやすいのだ。おどろかせてしまったな」
山形によりそい、熱い湯呑みを握らせて、ゆっくりしずかに語りかける。
「もう二十年か。出会ってからだと、もっとだ。……なあ、長いつきあいだ。たまには、こんな日があってもいいと思わないか」
山形はうつむいて、東海道を見ない。
「少なくとも、わたしは、ゆうべ、嬉しかった」
東海道は、うつむいた頬を両手でつつみ、横をむかせて目を合わせた。
「ほんとうだ。疑ってくれるなよ」
山形の唇がふるえた。声にならなかったが、なぜ、と問いかけたのがわかる。
「理由は、その……その…………それくらい、自分で考えろ」
昨夜のしあわせを思い出した東海道は、真っ赤になって言い放った。照れる恋人の姿に、めんこいなあと気持ちを溶かされて、山形は頭をさげた。
「すまねかった。ひどいことをしたず」
「いいよ、山形。大丈夫だ。……それに、わたしも謝らねばならない」
きょとんと山形が疑問を示す。
「『だっておめさが』と、言っただろう。考えていたのだが、私の何がいけなかったのか、まったくわからないんだ」
傲慢な話だが、と東海道も頭をさげた。
「おめさはなんも、なんも……!」
山形は首をふる。強く、強く。
「教えてくれないなら、これはわたしの宿題だな」
東海道は笑う。
「悪くないぞ。この問題が解けないうちは、おまえのことをずっと考えていられるからな」
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プロフィール
HN:
削谷 朔(さくたに さく)
性別:
非公開
自己紹介:
山形新幹線×東海道新幹線が好きです。
でも基本的に雑食、無節操ですのでご注意ください。
鉄分のない駄文ですが、よろしければ覗いていってください。
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