青春さまの青春鉄道、紙端国体劇場作品の二次SSブログです。
同人、腐、女性向けなどに理解のない方、義務教育を終了していない方は、ご遠慮ください。
実在の個人、団体、鉄道等とは一切関係ございません。
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君を恋う 5
長い業務を終えて山形新幹線が帰ると、宿舎はにぎやかだった。先に宴会を始めていてくれた、よかったと遅刻の主役は胸をなでおろした。近在の部下や私鉄など、気ごころの知れた仲間ばかりが、開業日の祝いに集まってくれているはずだ。山形はくつろいだ気分で集会室に顔を出した。
「みんなあ、遅くなってすまねかったなあ、いま」
帰った、という続きのせりふは、山形の口から出なかった。地元の鉄道たちは、尊敬する山形新幹線が口をあけたまま絶句するのを見た。
集会室は縦長の広間で、座卓をつなげて大皿小皿の料理が並べられている。その奥の屏風のまえ、主役である山形が座るはずの上座に彼がいた。
前髪をぴんと立て、在来線にかこまれて、ビールを注がれている東海道新幹線が。
そして言った。
「遅かったな、待っていたぞ」
絶句する山形を見て驚いている鉄道たちを後目に、得意げに。
東海道は右につめて、山形を招いた。きゅうくつで、まるで誕生日席に二人で並んでいるようだが、山形はだまって腰をおろす。驚きと疑問が胸にうずまいていたが、東海道がきっちり正座をしているのを見て、彼が上官モードであることに気づいた。はっとして山形も気をひきしめる。この場で私的な話はできない、部下の前では威儀を正すべしという東海道のモットーを尊重すべきだと判断する。
「いま、帰ったべ。今日はみんな集まってくれて、ありがてえず。もう遅いけんども、仕事にさわらねえていどに、たくさま飲んでってくらっせ」
仲間たちを見わたしてあらためて挨拶し、それから一番ききたいことを隣の新幹線にたずねた。
「東海道は、なしてここに」
すると、本人よりも早く、そばにいた在来線の一人が答えた。
「上官のお祝いに来てくださったんだそうです!」
目がきらきらと輝いている。そのとなりの在来は興奮ぎみに東海道に言った。
「東海道上官、山形先輩のために、わざわざ、ありがとうございます。ぼくたち、嬉しいです。光栄です」
「いや、いちど来てみたいと思っていたのだ。山形は、思ったとおりいいところだな」
東海道のことばに、地元の鉄道は一様に感激する。
(この人たらしが……!)
山形が内心で苦虫をかみつぶしたのは、嫉妬だ。そして素直に喜べないのは、この仕事の虫が、仕事も利益も関係なく新庄まで来たとはとても信じられなかったからだ。なんの用事か知らないが、休暇届に記した「私用」のついでに寄ったのだろうと考えるのが妥当だと山形は思う。山形には知らされない、想像もつかない「私用」だ。祝いを受ける上官らしくふるまっているが、山形新幹線は機嫌がいいとはいえなかった。
東海道のところにも人だかりができていたが、主役が到着したとあって仲間が次々と山形をかこみ、酒を注ぎ、祝詞をのべてくれる。みんな素朴でいい鉄道だ。
自分のために集まってくれた彼らに、上機嫌になりきれないのが申し訳なく、腹立たしい。東海道がいなければ、そのことを考えず仲間に感謝して祝い酒を飲めたかもしれないが、今日は、そばにいれば彼のことばかり気にしてしまう。ネガティブなことを考えてしまう。
東海道にあわせて姿勢と威厳を保っているとはいっても、祝いの宴だ。たがいに膝が触れるほど近くにいて、参会者と話すし、笑いもする。見るともなく、東海道が楽しんでいるのがわかる。山形は驚く。人見知りの気がある東海道が、めずらしいほど本当に機嫌がいい。浮かれているようにさえ見える。時々ちらりと視線が合う。そのたび一瞬だけ、山形に笑んでくれる。
(それでも)
山形は、ほっとしている自分を認める。
(来てくれて、よかったず)
東海道新幹線がここにいる、となりにいる、山形の手の届くところにいてくれる。それだけで、かなしいほど幸せであることを。
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プロフィール
HN:
削谷 朔(さくたに さく)
性別:
非公開
自己紹介:
山形新幹線×東海道新幹線が好きです。
でも基本的に雑食、無節操ですのでご注意ください。
鉄分のない駄文ですが、よろしければ覗いていってください。
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