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青春さまの青春鉄道、紙端国体劇場作品の二次SSブログです。 同人、腐、女性向けなどに理解のない方、義務教育を終了していない方は、ご遠慮ください。 実在の個人、団体、鉄道等とは一切関係ございません。

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 「君を恋う 2」の続きです。
 山形新幹線が山陽新幹線にやきもちを焼いています。



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君を恋う 3

 つばさ140号は東京に着き、つばさ143号が東京を、146号が山形を無事発車した。運行中の車両すべてが順調であることを感覚で確かめて、山形新幹線は張りめぐらせた神経をほどいた。
 乗務員室のいすで目を閉じて、息をつく。慣れた仕事だが、気力体力が必要だ。適度な休息を心がけながら、華奢ともいえる特別な同僚を思う。こころがどうしても彼に行く。
 東海道新幹線は化けものだ、と。
 山形の倍は運行している東北新幹線より、山陽新幹線はさらに多くの車両を走らせている。そして、東海道は山陽と比べても桁違いだ。数えきれないほどの車両を日々安全に走らせ続けながら、鉄道路線のトップとして部下の範となり、上層部と折衝し、新技術の開発にかかわり、後進を育て、借款を返済し、在来線の赤字を補填し、社員の生活をささえ。それを、たゆまず欠かさず半世紀。
(そりゃあ、トラブルで気持ちがもたなくなっても、あたりまえだべ)
 ポケットの中で飴の小袋をもてあそびながら思いをはせる。
 自分が東京に配属されるまでは、山陽がメンタルのサポートもしていたのだろうと想像がつく。そのまえは、ひとりで堪えていたか、あるいは東海道本線がささえていたのか。
 あまり、そのことを考えたことはなかった。自分が新幹線になる前のこと、また東海以西のことは、考えても詮無いことだった。プライベートはどうあれ、鉄道としての立ち位置が東海道と山形では明らかに違う。東海道と並ぶのは山陽新幹線であり、ながく二人だけで日本の先進国としての金看板を背負ってきた。その事実は変えようがないだけに、ひとりの男として、正直なところ考えたくない類のことだった。
 しかし、今日のようなことがあると、思わざるをえない。東海道が業務上で連携し、信頼し、協力を仰ぐのは山陽新幹線なのだと。もちろんだ、ごく当然のことなのだけれども。そして、山陽は東海道・山陽新幹線の膨大な輸送量を「いいよ。今日おれが見るわ」と笑っていえる実力の持ち主なのだ。
 ちり、と胸のおくでなにかが響く。山形の、ささいな記憶をよびさます。
 たしか春だった。そう、大きな朝礼があったから新年度のはじめの朝だ。東海道は上官室のデスクで業界紙を読んでいた。東海道の隣のデスクは山陽で、缶ジュースか何かを飲んでいたと思う。よくある光景だ。山形はメールチェックを終え、見るともなくそちらを見ていた。
 流れるように読んでいた東海道の目が、ある一点でとまった。頬が微妙に硬化する。素直な目のいろは徐々に深まって、複雑な、山形には読みとれない表情をたたえた。東海道の変化に気づいたのか、山陽がひょい、と新聞をのぞきこむ。山陽のなんでもないしぐさに、山形は内心、ちりりとした。
 山陽は、ああ、とでも言いたげにうなずくと、しばらく東海道の手もとを見ていた。それからジュースを飲み干すと、朝礼に行くぞと立ち上がり、東海道の肩をたたく。うながされて東海道が立ったのをしおに、高速鉄道たちが朝礼に向かう。山形もだまって倣ったが、こころの底がちりちりと焼けていた。その正体が、理不尽な独占欲だと知っているから、くだらない、格好悪いと退けて、それきり忘れていたけれど。
 思い出してしまった。
 朝礼のあと、山形も業界紙に目を通してみた。変わった記事は見当たらず、東海道がどこに目をひかれたのか知ることができなかった。
 停車駅が増えてきた、じき終点につく。車窓越しにふるさとの空を見あげて、彼はいまごろどの空の下にいるのだろうと思う。はめごろしの窓から吹くわけもないのに、山形のなかを風がとおりすぎる。冷房の効いた乗務員室はよそよそしく、寒々しかった。
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削谷 朔(さくたに さく)
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自己紹介:
山形新幹線×東海道新幹線が好きです。
でも基本的に雑食、無節操ですのでご注意ください。
鉄分のない駄文ですが、よろしければ覗いていってください。
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