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青春さまの青春鉄道、紙端国体劇場作品の二次SSブログです。 同人、腐、女性向けなどに理解のない方、義務教育を終了していない方は、ご遠慮ください。 実在の個人、団体、鉄道等とは一切関係ございません。

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 2013年7月1日の山形新幹線の話、その1。
 「21年目のはじめて」のつづきです。
 明るくなくてもよろしければ、どうぞ。



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 君を恋う 1


 今年の開業日は、目覚めがよかった。
 朝焼けはかがやき、鳥がさえずり、かたわらに愛しいひとの寝顔があった。
 山形新幹線は満ちたりて、早朝のひとときを楽しんだ。
 やがて恋人は起きだして、伸びをし、キスを交わすと自室へ帰っていった。
 いつものように。

「おはようさん」
「おはようございます。山形先輩、東海道先輩はどうされたのですか?」
 山形が上官室に入るなり、長野新幹線が訊いてきた。そのうしろから東北新幹線もこっちを見ている。山形は事態をのみこめないまま、その場を見わたす。
「東海道が、どうしたって」
たずねる山形に、長野と東北がそろってホワイトボードを見る。今日から始まる七月の予定表。その一日と二日、すなわち今日と明日の東海道新幹線の行動予定欄に「休暇」と書かれていた。
 山形は目を疑った。前日の終業時には「東京」と書かれていた。それはいい。昨日、東海道は残業していた。そのときに変更になったにちがいない。だが、ゆうべ山形は東海道といっしょにいた。東海道はなにも言わなかった。常と違うそぶりもなかった。
「いんやあ、しらねえなあ。なにも、きいてねえよ」
 動揺しながらも平静を装ってこたえると、山形を見つめる仲間ふたりが息をつく。
「そうですか…。めずらしいですね、東海道先輩が急にお休みなんて」
「体調不良ではないのだろうか」
東北の心配に、いや、今朝は元気そうだったと思い出す。
「それはないと思うべ、東北」
「ならいいが。休暇願には私用と書いてあるし」
東北の手元を覗き込むと、たしかに東海道の字で届けが出されていた。日付は、やはり昨日だ。
「今日のミーティングは、東北先輩がなさいますか。それとも、山陽先輩が」
長野が業務日誌を出しながら相談する。そこに、始業二分前になって山陽新幹線が入ってきた。
「おはよー。山形、開業記念日おめでとう」
 苦労性のイケメンは、朝から全開の笑みだ。あ、と長野新幹線が声を立てる。東海道の休暇に気をひかれて、開業記念日であることを失念していたらしい。東北は便利な無表情だ。
 祝われた山形は、しかし硬い声で「どうも」とだけ言うと、
「東海道の休みの理由は」
と山陽に問うた。
「え、東海道休みなの?」
きょとんとした山陽を、山形が凝視する。細く、つめたい目で。
「おいおい山形ぁ、なんか怖いよ。どうしたの」
あくまでも軽く返す山陽を、山形はにらむ。
「東海道が休みだと知らない、と」
「うん」
「その理由も」
「うん」
山陽はおだやかで、ふだんのとおりだ。山形の両手がつよく握られる。長野が心配そうにそれを見ている。
「時間だ。ミーティングを始めるぞ」
沈黙を切ったのは東北新幹線だった。否やを言わせない威厳がある。面倒ごとが苦手な東日本のトップは、ものごとを収めることには長けていた。
 ミーティングでは、山陽が東海道の仕事を請け負うといい、業務に支障がないことが確認された。山形が、8時台の「つばさ」で地元に向かう予定であったのを、13時台の「つばさ」に変更すると希望し、許可された。
「んじゃ、今日もがんばりますか」
「開業日おめでとう、山形」
「山形先輩、おめでとうございます。いってきます!」
鉄道の朝は忙しい。事務仕事をする山形を残して同僚たちは出ていった。
「気をつけて。安全になあ」
本心からの言葉をかけて、山形は見送る。上官室のドアが閉じられてから、頭を抱えた。
 山陽が東海道の休みを知らないわけがないと、山形は確信する。昨夜、山陽も残業をしていた。そして、東海道の予定表にある「休暇」の文字は山陽の筆跡だ。二人で残業をしているときに、山陽が予定を書き換えたのだ。おそらくは東海道の意志のもとに。
 東海道の自筆の休暇願が、それを裏付けている。昨日の時点で東海道は休暇を決めていた。そして、ひと晩いっしょにいたにもかかわらず、山形にそれを告げなかった。今に至っても、メールのひとつもよこさない。
「……そういうことだず」
うめくような声がでた。
 混乱していたが、事実を曲げる気はない。東海道が連絡してこないということ、山陽がシラを切るということは、山形には関係ないと二人が宣言しているに等しい。
 それでも、東海道は特別な存在だ。山形は信じていた。東海道にとっても、自分は特別な存在であるはずだ。「開業の日だ、おめでとう」と両腕を開いた東海道が鮮やかに胸にうかぶ。
 だから、地元行きをぎりぎりまで遅らせて上官室に残ったのだ。
 東海道がこの部屋に来るかもしれない。あるいは、遅くなったがと事情を伝える連絡が入るかもしれないと。
 PCを立ち上げ、携帯電話のマナーモードを解除して、山形は待つ。
 彼からの連絡を。
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削谷 朔(さくたに さく)
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山形新幹線×東海道新幹線が好きです。
でも基本的に雑食、無節操ですのでご注意ください。
鉄分のない駄文ですが、よろしければ覗いていってください。
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