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青春さまの青春鉄道、紙端国体劇場作品の二次SSブログです。 同人、腐、女性向けなどに理解のない方、義務教育を終了していない方は、ご遠慮ください。 実在の個人、団体、鉄道等とは一切関係ございません。

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 進行形 3の続きです。

 山形新幹線と夕食を食べる長野新幹線、後編。

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 進行形 4


「はじめになあ、おめさを見に行ったときなぁ」

 山形が始めたのは、水割りの杯を重ねて、酔いが濃くなってきたころだった。

「え、山形先輩も、視察に来てくださったのですか」

ぼく、ちっとも記憶にありませんと長野が驚くと、

「ちがうべ、東海道だず」

めずらしい、山形先輩が酔ってると長野は山形のとなりに腰をおろす。座卓だから、すこし位置をかえるだけで事足りる。なんとなく、ほおっておけない気がする。

「目を輝かせて意気揚々とかえってきてなあ、そりゃあ嬉しそうだったんだず」

「そうだったんですか」

東海道と初めて会ったのがいつだったか記憶にない。よほど小さいころだったのだろう。

「忘れもしねえ。東海道は開口一番『小さいが、間違いない。あの子どもだ、逸材だ』って言ったんだず」

長野は身を乗りだした。自分の知らない自分の話だ。

「そんで、図書館からやまほど育児書やら教育関係の本やら借りてきて、あいた時間ぜえんぶ使って猛勉強をはじめたんだぁ」

JR東海の図書室には、育児書まであるのですか!」

「あるわけねえべ。職員の図書カードかりて、区立の図書館さ行ってたよ」

東海道は無駄な出費をしないのだ。

「だからおれは、いっとう初めは、まだ見たこともない長野にやきもちをやいてたんだず」

え、と長野が驚く。山形はおだやかに笑って、機嫌がいい。

「そりゃそうだべ。東海道の、仕事以外の時間を根こそぎ持ってかれちまったんだず、ほら」

ひらりと長野に視線をよこす。

「俺と東海道は、仲良しなもんだで」

長野は赤面して

「そ、それは……すみませんでした」

頭を下げた。

「べつに、おめさのせいじゃねえべ。それだけ長野がいい子だったってことだぁ。けんど、やきもちの話は東海道にはないしょにしてくんろ」

目のまえの先輩をどこかかわいく思いながら、はい、とうなずく。

「そんで、座学がすむと、実際の子どもを知らねばとか言いだしてなあ、子ども対象の鉄道企画の手伝いを買ってでたり、東武の子どもたちを動物園につれてったりしてたなぁ」

「ええっ」

こんどこそ長野は声にだして驚いた。

「そっただ驚かなくてもええべ。おめさだって、遊園地とか動物園とかつれてってもらったべ。それにおめえ、東武や西武の子どもたちと仲がいいべ。東海道にひき会わされたからではねえか」

「そういえば……そうでした。東海道先輩が紹介してくれた記憶があります」

JRJRってあれだけプライドの高い東海道が、長野に友達が必要だからって、菓子折りもって私鉄や地下鉄とつきあいば始めたんだず」

知らなかった、と長野は呆然とする。それに、山形はやさしいまなざしを向ける。

「やきもちなんて言ったけんど、おれだって本物の長野を見たら、そりゃあ東海道が熱心になる気持ちがわかったさぁ、素直でまっすぐで賢くてなぁ。おめさもまあ、しっかり東海道になついたしなぁ」

「ぼく、先輩がたみなさんを好きですけど」

「んでも、おねしょしても眠れなくてもトカゲやへびが出たときも、まっさきに泣きつくのは東海道だったべ。はじめは東北なんかショックうけてたもんだず、長野は東日本の新幹線なのにって」

どれもこれも初耳で、長野は目をまんまるにするばかりだ。たしかに、東海道をいちばん頼りにしていたかもしれないと思う。いつかは新大阪で東海道と接続するのが、いまも変わらぬ自分の夢だ。

「それがなあ、おおきくなった。ほんてんに、立派になったなあ」

ほめられて、くすぐったい。てれかくしに冷蔵庫からペットボトルを持ってきて、山形にわたす。

「先輩、水分を取ってください」

「気がきくな、できた子だず」

スポーツドリンクを一気に半分ほど飲むと、山形は話をしめくくった。

「動物は必要なときに、子どもを手放す。人間には難しいことも多いようだがなぁ。おれは、東海道は見事だと思うべ」

 はっと、長野が息をのむ。

 寂しくて、悲しくて、頼りない気持ちはそのままに、東海道は正しいことをしているのだと胸におちた。

 

ごちそうさまでした、おやすみなさいと挨拶をして長野が部屋をあとにすると、山形の雰囲気が素面にもどった。歯みがきをしてから電話をかける。

「さっきまで長野と飯ば食ってたんだず。おかわりして、元気そうだったでよぉ」

「そうか。すまんな」

「ええって。明日は東京どまりけ?」

「そうだ、昼には戻る」

「じゃあ、夕飯いっしょに食えんべ」

「うむ、そうしよう」

「じゃあなぁ、おやすみ、東海道」

「うん。おやすみ、山形」

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プロフィール
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削谷 朔(さくたに さく)
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山形新幹線×東海道新幹線が好きです。
でも基本的に雑食、無節操ですのでご注意ください。
鉄分のない駄文ですが、よろしければ覗いていってください。
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