忍者ブログ
青春さまの青春鉄道、紙端国体劇場作品の二次SSブログです。 同人、腐、女性向けなどに理解のない方、義務教育を終了していない方は、ご遠慮ください。 実在の個人、団体、鉄道等とは一切関係ございません。

* admin *  * write *  * res *
[19]  [17]  [16]  [15]  [14]  [13]  [12]  [11]  [10]  [9]  [8
<<09 * 10/1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31  *  11>>
-->
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

web拍手 by FC2 -->

 山形新幹線開業前の五月のこと。
 上官室で、山形以外の新幹線がいます。
 



+ + + + + + + + + +

景色

 ゴールデンウィークも無事に終わり、もうすぐ昼休みになろうかという穏やかな初夏のある日。

「最近、目がおかしいのだ」

見栄と虚勢の塊のような東海道新幹線がそんなことを言い出して、上官室にいた仲間に緊張が走った。

山陽新幹線は東海道に駆けよって

「どこがどんな風に悪いんだ、見せてみろ」

とのぞきこみ、東北新幹線は産業医に電話をかけようとし、上越新幹線はその東北を

「まだ早いよ、待てよ」

と抑えていた。

最近仲間に加わった、現在は開業前で研修中の山形新幹線だけはこの場にいなかったが、ともかく三人ともが東海道を心配した。

東海道は宙を見て、

「きれいなのだ」

とつぶやいた。

一瞬、だれも訳がわからなかった。

東海道はつづける。

「おなじものなのに、前よりきれいに見えるのだ」

「なにがだ、東海道」

えらそうな口調はたしかに東海道のそれだが、どこかぼんやりした様子に違和感を感じたのは上越で、相棒として質問をしたのは山陽だ。

「葉っぱとか、空とかだ」     

「…は?」

東北が、まだ受話器を握ったまま間の抜けた声を出した。

「葉っぱの緑とか、木漏れ日とか、車窓から見る夕焼けとか、こんなにきれいなものだったかと驚いてしまうのだ。いや、たしかに以前は、こんなには美しくなかったと記憶している。だから、絶対におかしいのだ」

東海道が力説する。ぱっと見には理性的に見えるが、どうも違うようだと山陽と上越にはわかってきた。

「ええっと、東海道ちゃん? じゃあ、目、っていうか視覚や視力に問題があるわけではないんだね?」

「だから、見え方が異常なのだと言っているだろう、なにを聞いているのだ、きさまは」

「うん、突っ込みも元気そうで山陽さん安心したよ。目が痛いとか見えないとかではないみたいだな。なあ、前よりきれいに見えて、なにか困ってることはあるか」

「困ってること……困ってること……いや、特には」

ここにきて、なんだ、と東北がようやく緊張を解いて受話器を置く。心配して損した、いや、よかったと山陽の肩が落ち、上越が目を細めてたずねる。

「ねえ、それっていつごろから?」

「そうだな、うむ、ここ一ヶ月ほどかな」

「で、原因に心当たりは」

「ない。特に何も」

やけにきっぱりと言い切る東海道に、三人の仲間は頭を抱える。本人に心当たりがないのでは周囲にはさらに見当がつかない。

 なんともいえない沈黙が流れる。

 そこに、東海道の携帯電話が鳴った。東海道新幹線だ、と反射的に業務モードに戻って電話に出た東海道を、いきおい仲間たちが見つめる。

 

「おお、山形か、どうした!」

その瞬間に輝いた東海道の表情に、三人は目をむいた。

 光がさす、花がひらく、それこそ白黒の絵がみずみずしく色づくような変化だった。

 

 東北は、わけがわからないまま赤面した。

 上越は、うわぁ、と声にならない叫びをあげた。

 山陽は、見たくないものを見てしまったと胸をおさえた。

「うむ、わかった。いや、大丈夫だ。すぐに出る。では」

ピ、と電話を切ると

「山形のヘルプで運輸所に行ってくる。昼休みが終わるまでには戻る」

きびきびと動き出した。こころなしか足取りが軽いように見えるのに、山陽は嫌な予感が現実味を帯びてくるのを感じた。

「どうして、東日本の俺たちではなくて東海道に電話がくるんだ?」

東北が東日本のリーダーとしてもっともな質問をする。東海道はめずらしく笑顔で答える。

「公的に質問するほどのことではないのかもしれないな。山形には、どんな些細なことでも訊いていいといってあるから、わたしが頼みやすかったのではないだろうか」

東北は狐につままれたような顔になった。

「へえ。山形が来てたった一ヶ月で、きみたちがそんなに信頼関係を築いているなんて、まったく全然ちっとも知らなかったよ」

上越は抑揚のない声で返し、

「っていうか、山形って、山形って……」

山陽は絶句し、そこから先を考えることを放棄した。

 いそいそと出かけようとする東海道を引きとめたのは上越だった。

「東海道、もう一度きくけど、その目の変化の原因に心当たりは」

「まったくない」

「そう。あのね」

上越は、いつくしむような声で諭した。

「それはたしかに不思議かもしれないけどね、医者にもだれにも治せないから、観念するしかないよ」

それには山陽も同意した。相棒には安定していてほしい。

「そうだな、そのうち慣れるだろうし、悪いものではないんだろ?」

「そうか。そうだな。不思議なこともあるものだな」

「とりあえず、今は山形の開業を成功させようね。初の新在直通、ミニ新幹線なんだから」

「みんなで盛りたてていこうぜ」

「そうだな、大事なときだな」

上越と山陽の気配りに、東海道は素直にうなずいた。良くも悪くもまっすぐな男である。

「うむ。そして今後も、計画中の高速鉄道を実現させていかねばな。よし、では運輸所に行ってくるぞ。お前たちもサボってないで働きたまえ、では!」

そして、びしっと指をさして意気揚々と出て行った。山形新幹線のところへ。

 

「サボってないで、って、自分から話をふってきたくせに…」

東海道の姿が見えなくなってしまうと、上越の口からため息がこぼれた。

「まあそれが、東海道の東海道たるゆえんなのよ。山陽さんはもう慣れたよ」

「でも、あれだよね。ここ一ヶ月ってことは、やっぱ」

「それに、さっきの東海道、見てると」

上越と山陽はたがいにうなずく。

「山形が来たことしか、ないよな、変化って」

「つまり、やっぱり、そういうこと? そうなの?」

「知らないよ、そこまでは。でもほかにファクターがない…ってか、長いつきあいだけどあんな東海道、見たことないよ」

「そもそもっ、なんで東海道わかんないの、自分のことなのに。あのひと、ぼくや東北と違って年寄りなんでしょ? 山陽と同じで、ながーい人生経験があるはずでしょ?」

「ううん…でも、たしかに、あいつ潔癖ってか、微妙な感情の入る余地がなかったっていうか…うん、おれあいつと色っぽい話はしたことがないかも。…あれ? 今、おれのことも年寄りって言いましたか上越くん?」

「いやいやぁ、そんなことより山陽にいさん、今日は東海道と山形は、いっしょにお昼を食べるのかなあ」

「話が見えないが、東海道の目は病気ではないんだな」

あくまでも真面目に確認するのは東北である。返すのは上越だ。

「ビョーキっちゃビョーキだよ、多分。お医者様でも草津の湯でも治せないけどね」

「大丈夫なのか」

「へいきへいき。東海道がちょっとくらいおかしくなっても、べつに仲間は仲間でしょ?」

「それは、もちろんだが」

「だよな。たった五人の仲間だもんな」

そこは嬉しそうに山陽がうなずく。年の功か、軽く見えて頼もしい。

「だから、大丈夫だよ。東海道も山形も、ぼくたちもね」

「? どうしてそこで山形が出てくるんだ。もうすぐ開業するからか?」

「ボクネンジン」

上越が口を尖らせるのに、山陽が度量の広さを発揮して教えてやった。

「お前さんはお前さんのままで、東海道も東海道のままでいいってことだよ、東北」

新幹線のおにいさんとして、愛をこめて。

PR
web拍手 by FC2
この記事にコメントする
お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字

管理人のみ閲覧可能にする    
プロフィール
HN:
削谷 朔(さくたに さく)
性別:
非公開
自己紹介:
山形新幹線×東海道新幹線が好きです。
でも基本的に雑食、無節操ですのでご注意ください。
鉄分のない駄文ですが、よろしければ覗いていってください。
最新記事
P R
powered by NINJA TOOLS // appeal: 忍者ブログ / [PR]

template by ゆきぱんだ  //  Copyright: さくさく All Rights Reserved