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青春さまの青春鉄道、紙端国体劇場作品の二次SSブログです。 同人、腐、女性向けなどに理解のない方、義務教育を終了していない方は、ご遠慮ください。 実在の個人、団体、鉄道等とは一切関係ございません。

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 開業して十日目くらいの秋田新幹線の話、ひとつめ。
 秋田だけです。


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笑顔たち 1

 

 

 秋田新幹線はよく食べ、よく笑う。そして走る。つい数日前に開業したばかりだが、ピンクのラインをなびかせて、見るものを和ませる人気者である。その速度としっかりした長身にもかかわらず「こまち」という愛称に添う、愛嬌のある明るさをまとって。

 一見、きれいな長髪と女顔の印象が強いが、多くの人に好かれるのは、笑顔と前向きな心遣いが彼の本質をつくっていることに由来する。もしも短髪にしたとしても、彼のもつ雰囲気が損なわれることはないだろう。

 そんな彼は、おいしいものが好きで、明るいことが好きで、やさしい人が好きだった。

 だって笑顔が増えるから。

 だから、新幹線になってよかった、いいところに来た、自分は運がいいと思っている。

 地元も好きだ。故郷の自然は厳しく、人は辛抱づよく、あたたかい。しかし、新幹線ともなれば、走行距離が伸びる、輸送人員が増える、たくさんの土地や人々と新たに出会うことができる。

 東京には、おいしいものがいっぱいある。その気になれば世界中の料理を楽しめる。しかも、地元に帰ればなじんだ味が待っている。おいしいものを見ると、素直に頬がゆるんでしまう。

自分だけではない。東京駅をはじめとして、沿線には飲食店も駅弁や土産物の店もたくさんある。自分や誰かのために好きなものを選ぶ人は、たいがい幸せそうだ。

さらに、こまちが好かれていて嬉しい。ビジネスで利用する人は車内で仕事をしたり、仮眠をとったりと快適に過ごしてくれているし、旅行や帰省、志を持っての上京など、目を輝かせて新幹線に乗ってくれる人が多い。こまちの姿を見るために線路脇で待っていてくれる人もあれば、走っている途中で、地域の人から手をふってもらうこともある。そして、彼らは笑っている。

東京から秋田までの道のりのなかで、土地の言葉や匂いはグラデーションのように変わりつつ繋がっていく。風土も県民性もいろいろだが、人はみなパワフルで素晴らしい。たくさんの人のさまざまな表情を見ることができて、自分は本当に幸せものだと思う。

おいしいものを食べて精をつけるとともに、人のありようから元気をもらって、秋田はまいにち明るく走る。

そんな秋田新幹線だが、ここ二、三日、いささか食欲が落ちていた。普通のひとの五人前ぐらいで胃袋が満足してしまうのである。今日も、夕食にと買ってきた弁当の四つ目で箸が止まってしまった。自室だから、だれも見ていないからいいだろうと、自分にため息をつくことを許す。体調は悪くない。むしろ走りが軽くなってきたが、本調子ではないのだと自分にはわかる。

理由を、秋田は自覚していた。高速走行でかかってくる身心への負担や、式典つづきによる多忙が原因ではない。秋田の身体は頑健で強靭だ。食欲不振のもとは、新幹線として稼動しはじめてからの気がかりにあった。

開業直後は無我夢中で運行と煩瑣なスケジュールをこなしていた。だが、三日もしないうちに、自分の実力がわかってきた。東京-秋田間をスムーズにつなぐために必要なことを、練習してきたようにはできていないと気づいたのだ。

駅や線路とその周辺の景色、信号、ポイント、保線状況などの把握。天候、風向き、乗車率、他路線の運行状況、乗客のようすや車両の状態など刻々と変化していく情報の収集。連結、併走、分離、在来線区間での単独走行。それら一連の業務を手順どおりに時間厳守で行うという、あたりまえのことが、運行してみたら難しかった。完璧に記憶した美しいダイヤグラムさえ、走ってみれば複雑で、とても使いこなせているとはいえない体たらくなのだ。

しかも、そんな自分を高速鉄道の先輩たちは一人前に扱い、かつての同僚たちは上官と丁重に接してくれる。情けないところなど見せられないと、ひとり秋田は思っていた。

今のところ、秋田新幹線は大過なく走ることができている。それは東北新幹線をはじめ、在来線や職員のみんなが黙ってフォローしてくれているおかげだという事実に、秋田は感謝していた。同時に忸怩たる思いを抱えていた。

自分以外の鉄道や職員たちは、それぞれの仕事を行いながら、さらに秋田を助けてくれる。同僚は沿線の情報や、状況把握のコツを教えてくれる。職員は「助かります」と言ってくれる。東北新幹線は業務の合間に秋田の仕事ぶりをチェックし、補足し、時に褒めてさえくれる。すべてはさりげなく、秋田はありがたく思う一方で、かれらの実力を羨望してしまう。そんな自分が情けない。

明日は四月一日だ。

プレスした制服を着て、背筋を伸ばして、高速鉄道たちと会わなければいけない。

半年後に開業をひかえた北陸新幹線が、朝いちばんに配属されると聞いている。予定では上官室で北陸を仲間に迎えた後、在来線たちとともに朝礼に出る。年度はじめの朝礼だから、近在の路線が勢ぞろいするはずだ。上官として威儀を正して臨むべきだろう。

「走るだけなら、気持ちいいんだけどな…」

ため息が出る。

やるしかないと、かたく手を握る。もっと勉強して、たくさん走って、実地で身につけて一人前になるしかないと、新しいミニ新幹線は空をにらんで奥歯を噛みしめた。

 

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削谷 朔(さくたに さく)
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