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青春さまの青春鉄道、紙端国体劇場作品の二次SSブログです。 同人、腐、女性向けなどに理解のない方、義務教育を終了していない方は、ご遠慮ください。 実在の個人、団体、鉄道等とは一切関係ございません。

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 1992年4月中旬のある日。
 東海道新幹線と山形新幹線が、東海道の部屋で食事をします。
 

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近くの彼 1

 すとん、すとん、すとん。
 なれた段取りにそぐわない、ゆっくりと丁寧な包丁の音。
 くつ、くつ、くつ。
 だしと赤味噌としょうゆの香り。
 こと、こと、こと。
 ひろがる湯気と惣菜の煮える音。
 東京の宿舎の部屋には、それぞれ二口コンロの標準的なキッチンが備え付けられていたが、天下の東海道新幹線が自炊をするなんて、山形新幹線は想像もしていなかった。

 休日の午前中から、スーパーの袋をさげた東海道を見たのは今朝のこと。
「…あれ」
「おお、山形。おはよう」
山形は散歩をしていて、二人とも私服だったが、遠目からでも互いを見つけた。
 春卯月。木漏れ日のしたに、開襟シャツとスラックス。私服の東海道になぜか驚いて、山形はすぐに返事ができなかった。
「お、はよう」
「今日は休みか。よかった、やっと休みが取れたんだな」
 虚勢も裏表もない、自然な笑顔。
 いわれて山形は、自分が疲れていることにはじめて気づいた。四月一日に辞令が出て、山形新幹線として配属された。それから半月のあいだ、休みなく働き、勉強してきた。開業までたった三ヶ月、一分一秒が惜しい。ほんとうは今日だって出勤してもいいと考えていた。けれど、東海道のことばに肩の力が抜けた。すこし姿勢が崩れたような気がした。
 ゆるんだ気持ちのままに、これから料理をするという東海道をおもしろがって、こうして私室まで上がりこんでしまった。
「手慣れてるだずなあ」
 素直な驚きをこめて、山形新幹線は感嘆した。
「山形だってするだろう」
まな板にむかったまま返事が返る。
「いんやあ、やらねえなあ。男のひとり暮らしだでなあ」
「外食ばかりなのか?」
東海道は包丁の手をとめて振り返った。眉をひそめて、それでは身体に悪いぞと叱る目をして。
 キッチンのテーブルを借りて研修テキストを開いていた山形は、右手の蛍光ペンであごをつつきながら考えた。
「こっちに配属になってからは、ずっと外食だなあ。もともと、料理らしい料理はしたことねえしなあ」
「ではずっと、何を食べていたのだ」
「国鉄時代は古い宿舎でなあ、まかない付きだったんだず」
「じゃあ、まともなものを食べていたのだな」
東海道の怒気がやわらぐ。山形はなんとなく、こころに鳥がさえずるような気持ちになる。
「んだども、さすがに建てかえられてからは台所のついた部屋になって、まかないも大きな風呂もなくなってしまったから、飯くらいは炊いてたで」
「おかずはどうするのだ、コンビニか」
「いちおう味噌汁ば作れるから。あとは漬物でも瓶詰めでも、てきとうに食えるべ」
「それでは身体がぼろぼろになるぞ。身体は、食べたものや吸う空気でできているのだぞ」
真剣にいさめる東海道に、山形は言い訳をする。
「そればかりではねえよ。店でも食べるし、田舎だから惣菜の差し入れも多いんだず」
東海道は、そんな山形を疑わしそうに見つめると、くるりとまな板に向きなおって包丁を使い出した。
 すとん、すとん、すとん。
 さっきと変わらない音なのに、山形は叱られているような気分になってくる。
 怒らせてしまったかな、まだ新幹線としてのかかわりは浅いから勝手がわからないと表情にださずに困っていると、背中を向けたまま東海道が言った。
「とりあえず、昼飯を食っていけ。それから、予定があえばふだんも飯を食いに来ていい。ひとり分も二人分も、たいして変わらんからな」
 山形の手から、蛍光ペンが落ちた。
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プロフィール
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削谷 朔(さくたに さく)
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自己紹介:
山形新幹線×東海道新幹線が好きです。
でも基本的に雑食、無節操ですのでご注意ください。
鉄分のない駄文ですが、よろしければ覗いていってください。
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