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青春さまの青春鉄道、紙端国体劇場作品の二次SSブログです。 同人、腐、女性向けなどに理解のない方、義務教育を終了していない方は、ご遠慮ください。 実在の個人、団体、鉄道等とは一切関係ございません。

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 上官室で、高速鉄道たちが話してます。
 比較的、長野新幹線と東海道新幹線が目立っています。

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気持ちのかたち


 夕方の上官室に、ざわめきとともに新幹線たちが戻ってくる。
 日中の疲労と、今日一日を無事に終えられそうだという、少しくだけた雰囲気とともに。そしてたいがい、ひとり二人はお土産を携えて。
「あ、今日は『おやき』だ。長野のとこの?」
「はい、地元の駅長からもらいました」
「手づくりかな、おいしそう」
 今日のお土産にまず反応したのは秋田新幹線だった。
「雷おこしもあるぞ、さっき職員から預かった」
「こりゃ大量だねえ、在来にも分けようか」
東北新幹線が東京銘菓の大袋を持って入ってくると、上越新幹線が提案する。
「じゃあ俺、持ってくよ」
「待て。取りにこさせろ」
「でも、ついでだし」
「ばかもの。高速鉄道が軽々しく動くな」
フットワークのいい山陽新幹線とメンツにうるさい東海道新幹線は、いつもどおりのかけあいだ。ただいまと、しずかに山形新幹線が帰ってくる。
 いつからか、JRの路線の元には差し入れが届くようになった。地元の名産や地方の土産、手製の惣菜、季節の菓子など折々に心がけられる。それらは、上官、在来を問わず路線たちが職員に好かれ、受け入れられている証拠といえた。
「あの、ぼく、考えたんですけど」
 長野の発言に、みんなの注目が集まる。
「ぼくたち、いつもいただいてばかりで。嬉しいのですけど、なにかお返しがしたいってずっと思ってたんです」
ああ、それか、という空気が流れる。長野の先輩たちも一度は考えたことだった。
「日本茶、いれんべ」
「いい子だな、長野」
 長野のためにほかの新幹線が場をととのえるなか、長野の正面に立ったのは東海道新幹線である。
「教えたと思うが、われわれは公式の存在ではない」
「はい。戸籍も存在証明もない、非公式の存在です。テロや、政治的な駆け引きの対象にされないためにも、わたしたちのプライバシーや安全を守るためにも、機密事項とされています」
「おお、教科書的な答」
茶髪新幹線が驚き、
「長野はまじめだから。だれかさんとちがって」
長髪新幹線が返す。
「教科書より実践でしょ。おれらは走ってなんぼよ」
「よく言えば神様、悪く言えば幽霊のような扱いだ」
無口な新幹線が口を挟む。
「でも、みんなに良くしてもらってるけどね。社内では、知る人も多いしね」
皮肉屋新幹線が素直にフォローすると
「けんどやっぱり、おおっぴらに行動はできねえべ」
茶を汲みながら鳥好き新幹線が釘をさす。
「知らない人のほうが、圧倒的に多いのが現実だ」
BTが、威厳をもって断ずる。
「建前とか、立場ってものですか、東海道先輩」
「それもある。が、それ以上に、われわれは存在の証拠を残してはいけないのだ」
 ともに鉄道を生かす仲間としての人間に、親愛や感謝の気持ちを表したいと、どの新幹線も考えたことがあった。しかし結局、ここでつまずき、あきらめてきたのである。
 高速鉄道たちは、みなが同じく寂しい、いとおしい、なつかしい思いで長野を見た。しかし、長野はすこし考えただけで喝破した。
「証拠を残さず、お礼の気持ちを表すことはできないでしょうか」
「…なるほど」
「長野、すごいな」
「ううん、そうだねえ」
 若い、まっすぐな長野にどよめきが走る。
「不要だと思うが」
「ちょっ、東海道」
「われわれはJRのプライドであり科学技術の象徴だ。そもそも人間とは次元の違う存在なのだ」
「それもわかるけどさ、人間があってこその鉄道でしょ」
「実際、ぼくたちは人間の形をして、人間と仕事をしてるんだし」
「彼らがいないと、鉄道は動かないし」
「気持ちをもらったら気持ちを返したいっていうのは、素直にいいことだと思うよ」
交互に抗議する秋田と上越に
「扱いが神様でも幽霊でも上司でも隠し子でもかまわん、われわれは人間ではありえない。それを忘れて人付き合いもどきのことをしようとすれば、馴れ合いや惰性に陥るリスクが増える。水は低きに流れるものだからな」
東海道はにべもない。
「おめさは根っからストイックだずなあ」
山形の感嘆も東北の沈黙もかえりみることなく、東海道は長野に諭す。
「われわれのすべきことは、人間の信頼と感謝にたる走行と経済を維持することだ。彼らのニーズはそこにある。われわれの存在意義もだ。根本を見失うなといっているのだ」
 長野は目をふせて考え込んだ。東海道はしんぼう強く待っていた。やがて長野は顔をあげて
「鉄道としての本分を忘れず、自分を律するべき、という理解でよろしいでしょうか」
疑問形の結論をたたきつけた。
「そのとおりだ、長野」
東海道はその気概を受け止め、
「自律し、職務を果たし、高速鉄道の立場と匿名性を保ちつつ、職員に感謝の気持ちを表せるなら良いのですか」
「難しいぞ」
余裕をもって笑ってみせた。
「そうでしょうか」
長野は前をむいて考えた。
「ぼくはまだまだ未熟ですけど、プライドを持って職務に励んでいますし、北陸新幹線を立派な高速鉄道にすると決めています。まして、先輩方には歴史と確かな実績があります。威厳を保ち尊敬されつつも、職員の皆さんに好かれていると思います。だから差し入れもいただくのです。つまり、つまり…」
 長野の目がつよい。
「職員との交流と高速鉄道としてのあり方は、必ずしも矛盾しないのではないでしょうか。わたしたちは、いつもどおり心をいつもJRにおいて、誇りを持ってふるまえばいいのではないでしょうか」
 東海道の目が深い。
「できるなら、やってみろ。JR東海はやらないが。わたしにはわたしのやり方がある。長野には長野のやり方があるだろう。それはいつか東日本の強みになるかもしれないぞ」
「はい! ぼく、考えます」
「ただし、東北新幹線の監督のもと、仲間と相談して行うように」
「そうします。がんばります、東海道先輩!」
「プランができたら提案してみろ、東日本で詰めよう」
「よかったな、長野」
東北が話を引き取り、山陽が小さな頭をなでる。
「なんか東海道…、人たらし? 教育係? 古狸?」
「長野には甘いよねえ、東海道」
秋田と上越が笑う。
「さ、お茶にすんべ。おやきも焼きなおしたでよお、うまそうだ」
「わあい、いいにおい」
「いただきます」
おやきにとびつく秋田と両手をあわせる長野、
「じゃあ、在来のだれか呼ぶよ。東北、雷おこし分けちゃうよ、いいね。あ、お茶っ葉も余ってるよ、詰め合わせ。箱ごとあげちゃおうか」
上越にきかれても、下は人数が多いから、いいんじゃないか、という考えを口にだすのが面倒でうなずくだけの東北と、
「部下がくるなら、服装を正せ、上越。姿勢もだ」
「はいはい」
東海道の指示に逆らうのも面倒な上越である。

 おやきを食べながら、東日本の上官たちはプランを練った。
「ぼくたちの名前を出さないで、わかる人だけわかってもらうには…わからない人にも、お礼の気持ちを伝えるには…どうしたらいいのかなあ」
「長野、お礼の気持ちは、やっぱり食べ物だと思うよ」
「秋田、自分を基準にするんじゃない」
「でも東北、おいしいものは無難だよ、残らないし」
「なるべくなら、みんなが好きなものがええだず」
「そうですね、山形先輩。みなさんに喜んでいただきたいです。あと、すこしは手をかけたい気もします、気持ちを込めて」
「ただ買ってすませるんじゃなくて、ってことか」
「長野ぉ、どんどんハードルあがってるよ?」
「いいじゃない、考えるの楽しいよ」
「たまにはいいべ。おれたちには親戚づきあいとか冠婚葬祭とか、あんまりないしなあ」
 少し離れて、西よりの二人がそれを見ている。
「いい新幹線に育てたな、東海道」
「栴檀は双葉よりかんばし、というやつだな」
年かさの新幹線たちは、目を細めてうまい茶を味わっていた。


 それから、各地のJR東日本の職員に、時々おにぎりが差し入れられるようになった。だれからの差し入れかは、なぜか詳らかにされなかったが、上長や古参の職員が何も言わず有難そうに食べ始めたので、現場にはなんとなく詮索しない雰囲気ができた。
 手づくりの小さめのおにぎりは間食や夜食にちょうどよく、上等の米が使われていて好評だった。必ず米の銘柄が添えられていて、それは決まって長野産コシヒカリ、青森産つがるロマン、新潟産コシヒカリ、山形産つや姫、秋田産あきたこまちのいずれかであった。
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削谷 朔(さくたに さく)
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